「ヨーク、事業再編後のオペレーション統合とスタッフ教育の変革」
株式会社ヨーク 神田 佳尚 氏

モデレーター ClipLine株式会社 執行役員
カスタマーサクセス部 部長 植原 慶太

植原ー 神田様の簡単な自己紹介と役割について教えて下さい。

 

神田様(以下、神田)ー 私はヨーク一筋26年で、店長からエリア責任者、販売部長を経て2018年より構造改革推進室長を勤めています。現在は人材育成をテーマに、社員教育の企画立案実行を任されています。取り組みは順調にスタートは切れ、現在はここから第二章、というようなフェーズになっています。
現場で20年ほどの経験がございますので、何よりも現場のために、という思いは人一倍強いですね。

 

植原ー ありがとうございます。それではまずはヨーク様の事業について、簡単にご紹介いただけますでしょうか?

 

神田ー 我々はセブン&アイ・ホールディングスの事業会社として、首都圏にスーパーマーケットを展開しています。2020年6月に、旧イトーヨーカドー食品館、ザ・プライス、コンフォートマーケット、旧ヨークマートを統合し、株式会社ヨークとして発足した企業です。旧イトーヨーカドー食品館は人口過密商圏エリア、旧ヨークマートでは郊外の住宅街をターゲットにするなど、それぞれ特徴を持った出店傾向があります。

事業再編で生まれた必要となった教育・育成基盤

植原ー ありがとうございます。3社の事業再編が進む中で、オペレーション・人材育成の現場ではどのようなことが起きていたのでしょうか。

 

神田ー オペレーション面・人材育成面では、事業を拡大均衡に持っていくために、いち早く次世代のリーダーを育てていく必要がありました。
そして時を同じくし、コロナウイルスの影響で対面研修ができなくなり、研修の方法としてもデジタルシフトが求められました。

しかし事業再編前の3社それぞれで異なる人材育成のやり方があったため、研修内容の面でも、共通の育成方針、育成基盤が急務でした。

統合をした中で、はじめて見えてきた課題もあり、統合した3社のなかにあるそれぞれの良い部分を形式知化して、新しいオペレーションや教育の在り方を構築していくことが求められました。

 

植原ー なるほど。コロナ禍に事業再編でのオペレーションの整理が重なったのはなかなか難しい状況でしたね…。
それでは、ここからは事業再編を下支えした教育変革のステップとして、ヨーク様の教育変革の背景について伺っていければと思いますが、ClipLine導入時の課題をもう少し、具体的には教えていただけますでしょうか。

 

神田ー まず、店舗側では、多くの方が「時間的余力がない」と感じていることが挙げられます。

 

例えば、

  • 店舗運営が忙しく教育の時間が取れない
  • 統合後のルールブックがない
  • どう教えたらよいか、なにを学べばいいか不明
  • 1on1では教育レベルのバラつきが発生
  • 情報量が増え店長に集中(下に落ちにくい)

など、こうした中で店長やリーダーの方がなかなか効果的に教育が実現できない状況でした。

一方で本部側では:統合によって店舗が一気に増えるなか、人財関連の業務に対して一気通貫した対応が求められていました。

 

例えば、

  • 店舗増による事務作業の煩雑化・新業務追加
  • 統合に際し社内問い合わせ多数
  • 店の課題感の共有(営業・管理部門)が不足
  • 店舗支援に向けた本部一気通貫の取り組み不足
  • スタッフの専門スキルを活かしきれていない

などです。こうしたなかで、本部としても有効な支援策を模索していました。

ClipLine導入で目指したルールの明確化と教育格差の是正

植原ー ありがとうございます。そのなかで、従来のどのような課題に着目し、どのような理想の姿を実現しようとされようとしたのでしょうか。

神田ー 従来は、OJT(ベテランの経験)やトレーナーの(マニュアル)に沿って実施する人材教育が中心で現場の裁量に任されていたため、教育効果が限定的な一面がありました。
また教育実施回数も、階層ごとに偏りがあり、店長は多いが、Mgrになると手が回りきらない等、教育提供機会も十分とは言えない状況でした。

ClipLineの活用を通し目指した姿は、動画を活用することで会社の方針や考え、ルール、技術手順やコツを可視化し階層を超えて、教育内容を正しく伝えることでした。

そうした仕組みの上で、新会社としてのルールを明確化し、教育環境の整備による店舗業務効率の追求したり、教育格差を是正し個人のキャリアを後押しするような取り組みを推進したいと思っていました。

 

植原ー ClipLineの機能やサービスのなかでどういった部分をご評価いただきましたでしょうか

 

神田ー 1つ目は、Todo機能です。
研修を取りまとめて体系化ができることと、フィードバックしあえる点が他社にはない魅力でした。教材をまとめてカリキュラムにできるため、階層別・目的別の研修に使いやすかったり、双方向性があって、フィードバックがしやすいところが特徴的でした。

2つ目が、教材制作支援のサービスです。
ClipLineは現場が教えていることや研修の内容を、動画教材にする撮影・編集サービスがあります。このおかげで、迅速にこちらの要望する動画作成が可能となり、教育機会を拡大することができました。従来紙マニュアルではわかりづらかったことが動画に置き換わっていき、効果的な従業員教育が進められました。

 

植原ー ありがとうございます。ご評価いただいた2点のうち、動画制作についてはClipLineの組織の強みと言える部分です。当社は、撮影編集のプロフェッショナル人財が所属していますので、システム活用からコンテンツをそろえるところまで一気通貫でご支援します。

実は、ClipLineの動画制作支援は、1回外部研修をアウトソースするのと同じくらいのコストでできています。外部研修と違って、教材として蓄積されるので、一時的なモチベーションアップにとどまらず、現場の品質向上に寄与しています。

店長/マネジメント向けの内容でも、意識の高いメンバーは関心をもってもらえていますし、広く教育企画拡充が進んでいます。

また、映像制作専門にしているところと比べても圧倒的に安く済ませることができるのが特徴です。

ClipLine導入で目指したルールの明確化と教育格差の是正

植原ー 次は、ClipLineの導入成果について伺いたいと思います。成果としてはどのようにご評価されていますでしょうか。

 

神田ー 成果としては、まず人時生産性への寄与を見ています。
ClipLineを活用することで、様々な施策の現場浸透のスピードが速くなり、各種施策の人時生産性への影響が大きくなりました。

例えば、セルフレジの導入など様々な取り組みを本部主導で進めましたが、それに対する現場への説明工数や問い合わせが減少したりしています。
また、新人の受け入れ時間が1/2になったなどの成果も見られています。

もう一点、cliplineのコンテンツを組み合わせて、各階層向けの研修を増やしました。
結果として、現場からポジティブな声も集まりましたし、将来の会社を担う副店長人財の育成スピード向上にも寄与しました。

 

植原ー ありがとうございます。ClipLineからも補足させていただきますと、ヨークさんの活用レベルが非常に高いことが挙げられます。
当社の小売業界の利用率との比較なのですが、ClipLineの利用定着が根付き、店長・副店長の武器や本部と現場をつなぐハブとしてうまくご活用いただいていることがわかります。

丁寧な説明と利用者の声を聞くことで高まった組織の意識

植原ー 続いて、ClipLineを活用するための組織の巻き込み方、具体的にどのようにClipLineを浸透させていったのかについても伺えればと思います。

 

神田ー まずは、導入にあたり、ClipLineの説明を各階層への周知・理解促進の推進、次に、現場スタッフに向けて必要なコンテンツについてアンケートを取りました。
これは、会社として身に着けてもらいたい・身につけないといけないことを教育するのはもちろんですが、現場が知らないこと・わからないと感じている事項をボトムアップであらい出して進めることで、積極的に学習してくれるようにと期待してのことでした。

結果としてコンテンツ制作の3本柱ができました。(マネジメント・技術・作業改善)
その中から、まずは「マネジメント教育」に関するコンテンツ制作と配信を進めました。
続いて、技術教育や作業改善の考え方などコンテンツを拡充していきました。
コンテンツを配信の際に重きをおいたのは、現場からのフィードバックを必ず関係各所の本部メンバーに伝えることです。

これにより本部のメンバーも自分ゴト化や、店との双方向コミュニケーションが起き、全員で店舗を支援する意識付けが高まりました。

 

植原ー このなかでポイントだったことはどんなことでしょうか

 

神田ー 現場の意見や要望をしっかり聞いて、答えていくことで現場のメンバーから「作成ありがとう」等の共感を得たことです。

これらのポジティブな現場からの声を聞いて、本部に共有することで、構造改革推進部が現場と本部のハブのような役割を持てました。

アンケートで声の多かった課題事項を優先して関係部署とのコンテンツ制作・配信をスタートしました。

 

植原ー アンケートについては、コンテンツを洗い出すときだけでなく、コンテンツを出した後にも実施しています。この意図は何でしょうか

 

神田ー アンケートは、コンテンツを作るための企画要望アンケートと、動画を見て分かりにくかった等の検証をする為のアンケート2種類を実施しています。

後者については、動画の効果測定や修正箇所の発見のみならず、本部スタッフが現場の困りごとや感想をフィードバックする役割も果たしています。

結果として、本部が一丸となって現場を支援することに寄与できました。

 

植原ー 導入時に先ほどのような取り組みを推進した結果、本部についても大きな変化があったと聞いています。どのような変化だったのでしょうか。

 

神田ー 先ほどの通り、構造改革推進室を中心に各部を巻き込んでいきました。人事総務、QC、お客様相談室、企画部などです。

最初のうちは、構造改革推進室から働きかけて、他部署に依頼してコンテンツ制作に協力いただき、店舗に配信した後に、現場にアンケートを取ってその結果を管掌部署にフィードバックするということを細かく続けていたんですね。

この取り組みを続けていたところ、これまで動画を作りませんか?と教育推進部から働きかけていたところから、逆に今度は本部の各部署から一緒に動画を作りたいという要望が上がってくるようになりました。
また、経営層だけでなく、コンテンツ作成に関わった担当者もクリップに登壇するようになって、幹部から担当者迄、幅広く教育に参画する意識が高まりました。

 

植原ー 担当者の方が自ら動画にご出演いただいて、ご協力されるのは素晴らしいですね。実際に店舗の変化はありましたでしょうか。

 

神田ー 本部スタッフが社内講師となり、動画に顔をしっかり出して出演することで、店舗側からも顔が見えるようになり、本部と現場との距離が短くなったと感じる」ような声もいただいています。

 

植原ー ありがとうございます。ここからはより詳細に、実際に活用されている動画についてお話していきたいと思うのですが、事例としては「マネジメント教育」「技術教育」「作業改善」の3点になります。

まずマネジメント教育では、アルバイト含めて入社された全ての方にご覧になっていただいている経営理念に関する動画などがありますが、そのほかでは、店舗での従業員採用についての動画も作られています。こちらの背景を教えていただけますでしょうか?

 

神田ー 従来は採用書類の書き方のみを動画教材にしていましたが、そもそも現場では人手不足で人を採用したいが思うように出来ない、という課題がありました。
そこで実際のロールプレイングなどの動画も撮影しながら、採用対応できるメンバーを増やしたり、新規採用時の感じの良い応対の仕方・手順などを学ぶことが出来るということで店舗からは好評を得ています。

 

植原ー 「ノーマライゼーション(障がい者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するべき、という考え方)」などに関しての動画も作られているということですが、こちらも何かエピソードがあれば伺えますか?

 

神田ー ノーマライゼーションへの対応のような、大掛かりな研修は、会場の用意・人をあつめる・講師が複数名必要で、なかなか研修機会を実現できませんでした。入社時に一度研修を受けられるくらいの頻度になります。
特に日々売場でお客様に接するはずのパート従業員までは研修機会を設けることが出来ませんでした。

しかし動画を通して研修を再現すると、パート含む全スタッフに教育機会になりますし、
中堅社員にも、もう一度目を向けていただく機会になりました。
車いすの方への声のかけ方、この棚の高さに置いてある商品は取れないんだ、などの気づきをえたという感想も多かった。

入社時に一回聞いただけでは風化してしまいますし、その意味でも、このノーマライゼーションの動画は、行動変容につなげる動画で、共感を生むコンテンツになったかなと思います。
ほか、クレーム対応、災害対策、衛生管理など、マネジメント研修のコンテンツを数多く掲載しています。

 

植原ー 続いて技術教育です。各セクションのオペレーションを動画化しているのですが、朝・昼・晩と時間帯ごとの一連の業務オペレーション動画が上がっているのが特徴で、こちらが非常にわかりやすく、ヨーク様独特のお取り組みなのですが、どういった意図があるのでしょうか。

 

神田ー オペレーションを時間帯別に見せることで、時点のどこが課題かというのを明確にすることができ、対応が進むのではないかというように考えました。
時間帯ごとに目的を明確化して、時間帯ごとにすべきことを現場で見通せるようにすることによって、店舗ごとに具体的に課題に気づき、対応ができるようになることを狙ってコンテンツを作りました。
これは階層別教育はもちろん、OJT教育にも非常に好評で活用いただいています。

 

植原ー 最後に作業改善についてですが、かなり込み入った内容ですので、動画のタイトルやカテゴリーについて少しご紹介しますが、この辺りのコンテンツの意図や狙いを教えていただけますでしょうか?

 

神田ー 今までマニュアルの整備はして来ましたが、その通り行かないのが現場です。
基本的な考え方として、問題を見つけて改善できる人を育成していきたいと思っています。
どんなに好調なお店でも、問題は必ずあります。問題はどこにあるのか、なぜ起こるのか、どう解決するのか。こうした考え方、やり方や手順を整理して、コンテンツ化をしてきました。
その動画は管理者やマネージャークラスの方に非常に好評です。

 

植原ー 最後に、今後のヨーク様の人材育成について伺えればと存じます

 

神田ー ヨーク社は、ClipLineもDX推進の一環として位置づけ、デジタル教育を通じた事業構造改革を進めております。
OJT(ベテランの経験)やトレーナーの(マニュアル)に沿って実施する人材教育だったものを、ClipLineを活用する事で社内のメンバーが講師として自身の知識・経験を伝えたり、新しい教育テーマ(顧客データの活用方法など)実践的な教育プログラムへのチャレンジも進めております。今後もClipLine様とともに、教育体系の深耕をしていきたいです。

教育テーマの裾野を広げ、共に自立・自走型人財の育成へ取り組んでまいりたいと考えます。