「マーケティングとパーパスドリブンによる価値創出と企業成長
~吉野家の戦略企画と組織の巻き込み方~」
株式会社吉野家CMO 株式会社グリッドCEO 田中 安人 氏
モデレーター
ClipLine株式会社 取締役COO 金海 憲男
吉野家のCMOとしてさまざまな企画を生み出しながら、株式会社グリッドでマーケティングコンサルティングを行っている田中安人氏に、前半は企業におけるマーケティングの重要性と戦略立案の勘所を実際の事例とともに伺い、後半は店舗で行われている品質・サービス向上に向けた取り組みをご紹介します。
田中様講演パート
田中様(以下、田中)ー 私は株式会社グリッドでマーケティングコンサルティングをやっておりまして、パラレルワークで吉野家グループのマーケティングに17年前から予算権と人事権を持って携わり現在は吉野家のCMOを担当しております。
加えて日本スポーツ協会で日本のスポーツのブランディング設計もやっています。
私の特徴を一言で表しますと、「ビジネス界とスポーツ界の両方の組織の両方の組織で”言動一致”を構造化し未来設計をすることで強い組織を作る」。この「言動一致」というキーワードは覚えて帰っていってください。人に例えると、言っていることとやっていることが違う人は信用できませんよね。組織もまさしくそうです。言うのは簡単なんですが、これをやるのがすごく難しい。今日はそのあたりの話をしたいと思います。
私は今電通と協業して組織コンサルティングもしております。そこで難しいことをたくさん言われるのですが、論点はシンプルで、組織の目的地と現在地はどこなのか、そこだけです。
これは私が作った図です。Mission Vison Valueは言葉として流通していますが定義がよくわからないですよね。
Visonというのは「ワクワクする未来」です。ここに経営数字をもってくる組織がありますが、そこに経営数字をもってくると社員が躁鬱になります。なのでこの「ワクワク」というのが大事です。
Missonというのは「オリジナルな存在意義」です。これが今日のキーワードになってきます。
さらにもっと大事なのは右側の「Value」なんです。皆さんはここを「行動規範」や「価値観」といわれますが、シンプルに「社長の価値判断」です。
このValueはさらに分かりやすく表現すると「行動パターン」です。この行動パターンを明確にすると、Visonにいち早く最短距離で行けます。その結果矢印が明確になっていると、従業員も存在意義が明確になります。色々な事業が展開され、M&Aで新たな組織が融合されても文化が一気通貫しています。ここがすごく大事です。
会社というのは船です。Visonというのは目的地です。
なので、行先を書くというのが非常に大事です。当たり前のことではあるのですが、会社組織になるとなかなかそこが明確になっていないところが多いです。
電通さんと一緒に私が開発したVISIONEERING Assessmentというのがあって、組織を9個のブロックに分けます。
これは本当にシンプルで、Missionがあってその下に戦略・戦術、縦がVisionの強度を表しています。次にVisionと行動と文化、これを「浸透の一貫性」といいます。戦略・組織・制度を「制度設計の一貫性」、Visionと戦略・戦術は明確になっているのですが、人事評価が連動していなかったら人は動きませんよね。
または戦略のところに組織が来ている会社も結構あります。要するに人を生かしたいから組織ありきの戦略です。これはおかしいですよね。
というものが結構ありますので、まず組織診断でこれをやるとその組織のどこが病気になっているかだいたいわかります。組織を人体に例えると、血流が滞っているところが病気になります。組織にとっての血流とは、コミュニケーションです。コミュニケーションが滞っているところが、だいたい病気になっています。色々な会社を見てきましたが、組織診断の同じ病気の箇所がある会社は一社もないです。必ずその組織の中に独特の文化があるので、そこをまず見つけます。
「組織が駆動する」ということはつまりは「言動一致」のことです。例えばコンサルタント会社が「御社のvisionはこうです」とかっこいいものを作ったところで、会社は動きません。そのDNAから導かれた言語・コトダマになっているものがだいたいすごく駆動します。
組織循環の構造図を絵にするとこういうことです。
Misson・Vision・戦略・戦術・チーム目標・個人目標とありますが、基本はESの向上、Employee Satisfactionのベースに乗っていることが大事です。
私は外食の研究会を立ち上げていて、トリドールさんやKFCさん、スターバックスさんと最先端事例の研究会のリーダーをしています。基本、色々な事例はありますが、全部ESの上に乗っているというのがとても大事です。
一番大事なのは真ん中の行動パターンです。DNAから導かれたワード、例えばとってつけられたようなコンセプトをコンサルタントに提示されても会社は動きません。
例えば丸亀製麺さんの場合、「おせっかい」というキーワードが社内で流通しています。マーケティング用語であーしなさい、こうしなさいと言われても従業員は分からないのですが、「おせっかいしなさい」と言われれば「一歩気のきいた先のことをするんだね」ということがわかります。
Soup Stockさんも面白くて、「目の前のお客様の温度を一度上げましょう」というキーワードがあります。これは素晴らしいですよね。アルバイトの人も、目の前の人に最高のサービスをしたいと思うのです。オリジナリティということが大事ですと先ほどいいましたが、皆様の組織の中に、とってつけたものではなくて、脈々と流れているDNAを見つけて下さい。
私はChief Marketing Officerという名を拝命しておりまして、マーケティングの最高責任者です。組織によっては若干定義が違いますが、CMOになったときに、世界で初めてCMOという肩書についた人に質問しにいきました。
その方はJim Stengelさんという方で、P&Gのグローバル・マーケティング・オフィサーをされていました。最終的にグローバルの売上を3兆円にした人です。彼に「CMOってなんですか」と聞きました。そうしたら彼に質問されて「田中さん、今まで日本の歴史の中で変革者って誰ですか」と聞かれました。「織田信長とか坂本龍馬とか徳川家康ですかね。」「そうですね」と。「彼らは誰かに言われて変革を起こしたと思いますか?」と言われました。なので、人に言われるのではなくて、自分がいいと思うことに対して設計・実行するのがマーケティングのリーダーなんだと理解しました。
彼がパンパースを手掛けだした30年前位、技術力が最高なのでコミュニケーション、CMさへ流す必要がなかった時代があったのです。
その時代に世界の工場長を説得して、彼が発見したのですが、今では当たり前な、初めて子供が生まれたときに肌身に付けるものがオムツですよね。
今となってはオムツの演出でお母さんと子供というコミュニケーションが今は当たり前なんですが、彼がこのコミュニケーションを発見してCMを流したら売上が倍増したそうです。
何がいいたいかというと、技術が優れているけれども、それをコミュニケーションに置き換えることはすごく大事です。彼はCMを作る前に工場長に説得しにいったそうですが、マーケターというのは組織の本質を見つけて、世の中とコミュニケーションをするために必要なことは全てやるのだ、と。つまりC E Oの判断以外は全部やるのだということです。
彼に教えられたのはマーケティングとは商売そのものなんだなということを教えられました。やらされるのではなくて、自分からやる。
今まで私がどんなことをやってきたのかを簡単に説明します。
まず、中国の「女子十二楽坊」というアーティストを中国で見つけてきて、日本で紅白歌合戦に出ました。僕は音楽の素人ですが…。また、十七年前に銀河系最強集団のレアルマドリードを日本に連れてきました。
この二つで僕が学んだことがあります。20世紀の敏腕プロデューサーは音楽もサッカーも絶対成功しないと言われました。ですので20世紀の成功フォーマットではありえなかったんだけれども、僕たちは21世紀の新しいフォーマットを作ったら成功したんです。
ここで私が学んだのは20世紀の敏腕プロデューサーが絶対無理と言うコンテンツは、21世紀フォーマットにもってくれば成功するということを学びました。
次に、15年前位に行った「はなまるうどん」の宣伝の事例です。当時はまだ100店舗くらいで、宣伝費がなかったので社長から「金はないけど売上を倍にしてくれ」といわれました。
さすがにお金がなくてどうしたらいいかなと考えたら、じゃあうそをつくしかないだろうと思いました。年に一回だけうそついていい日がありますよね。
この年代の方だと覚えている方もいらっしゃると思いますが、たまたまNHKのスペシャルで、ダイオウイカという未知なる生物が発見されたといって大ブレイクした番組がありました。たまたまそれを見ながら、同時にiPhoneでネットの2ちゃんねるもみていると大ブレイクしていました。
こんなに正統性のあるコンテンツで2ちゃんねるが大ブレイクしている違和感に「すごいな」と思ったんですね。
十数年前には、外食でダイオウイカを天ぷらに揚げるという企画はなかなか不謹慎でしたが、チャレンジしてみました。
これをやったら公開直後にサーバーがダウンしました。本当になにも告知していないですよ。これをあげて大ブレイクして結果的に平均売上が200%、店舗によっては400%売上ました。店頭訴求は何もしていないんです。先ほど言ったコミュニケーションの関係性資本という考え方のきっかけになった事例です。
社長から「また今年もやってくれ」と言われたので、「いやいや2年は無理ですよ」と思ったんですが、マーケッターとして無理とはいいたくないので、新たなアイディアを考えました。当時西之島新島が噴火していて、西之島新島に新店舗を造ったという「嘘」です。
たまたまその当時世界で唯一のマグマクリエイターという人がいて、10何年前にコカ・コーラがおいてある缶がマグマで破裂するシーンが当時一億アクセス、今でも 100億アクセス位の数字があると思いますが、その人のところに会いにいってこれを撮ったのです。
要するにマグマあんかけうどん。本当にあんかけにするにあたって、2500度のマグマところにいきました。そうしたらあまりにも美しい映像が撮影できて「これ、CGじゃないの?」と大ブレイクしました。本当に撮ったんですけどね。基本的にはコミュニケーション、社会関係性資本を作るためにリアルに色々なことにチャレンジしていました。
私は3年前に「口コミ大賞」というものをいただきました。リアル店舗はみんな競争しているのですが、インターネット上でコ・クリーション(共創)できるのではないかと思い、インターネット上で普段戦っている仲間たちと一緒にこれを立ち上げたら広告宣伝費で10億円分位の露出が出て、AKBの作詞家さんが勝手に歌を作って、勝手にテレビにあげてくださったんですね。
最終的に集英社さんから、この外食戦隊ニクレンジャーの食育の絵本が出版されました。本当に一個のアイデアからこんな風に展開してきて、本当にお子さんが吉野家に食べに行きたいという風になったんですね。なので、アイデアは無限なので、予算がなかったらアイデアを出してくださいという話なんです。
ガストさんと総合競作をやりました。その当時こんなことはあり得ませんでしたね。
こちらは昨年外食がコロナで元気がなくなっているので、元気を出させようということで、「#外食はチカラになる」という企画をやりました。設立当初28社9,400店でしたが、最終的に約20,000店の外食のお客様が参加していただくような企画になりました。これだけのブランドが入ってくれました。
基本的に今の時代は戦略PR手法が必要です。要するに広告の時代ではなく、PRの時代です。なので自社の強みをどういう風にアプローチするかが大事です。
戦略的㏚で最近顕著なのは、コロナに入ったときです。覚えていらっしゃると思いますが、学校が休校になって、お母さまが子供の弁当を作るにあたって、働きに出られなくなったときにいち早く「お子様食事支援」というものを、デザインもしないで、概要の説明をプリンターで出力して店頭に張っただけです。そのタイミングとその時の子供支援で「いいね!」ということになって、NHKに取り上げられました。子供をやるんだったら家族もやってくれとなり、家族支援もやり、これもNHKで取り上げられたりしました。どれも宣伝・広報は一切やっていないです。
これは僕の持論です。「桃太郎理論」という言葉を覚えて帰ってほしいんですが、桃太郎さんって、何故あんなに怖い怖い鬼に立ち向かえたのか?
プロデューサーをやっているときに発見したのですが「鬼さん」というのは社会課題なんです。なんでそんなに怖い鬼に立ち向かえるかというと、鬼さんを倒したら、何があるかといえば、村民が助かるんですね。
村民が助かるんだったら村民を心から守りたい命がけの犬さん・キジさんが来てくれる。最初、僕はちょっと勘違いしていて、きび団子は現金だと思っていて、お金でメンバーを集めました。そうすると鬼さんが強大だったときにメンバーが逃げたんですね。
そこで気が付きました。きび団子というのはパッションなんです。そうすると、助けたい村民のために、命がけの一流の人が集まってきてくれて、いくら鬼が強大であっても誰も逃げないような一流のメンバーが集まってくるということだったんです。
こういう構造で社会課題を見つけて、ノーという人は誰もいませんから。
今日のポイントである「組織の巻き込み方」についてです。DXといわれているベースは経済産業省が「2025年の壁」というのを出して、これからバズワードが始まっているのですが、皆さんDXっていいますよね。
今僕は勉強会をやっていますが、DXってなんのためにやるんですか?理由はBX(ビジネストランスフォーメーション)をやるためです。もっというと、従業員の労働負荷軽減のためにやるんです。ここの手段と目的を間違っていることが多い。
日本人は真面目なので縦型の組織を横型にするということは結構大事です。
また、組織の壁を破ると戦略的PRがやりやすい。文化が古くて組織の中枢部門はプライドが高いですよね。ここが融合すると戦略的PRがやりやすくなります。
最後にBXトランスレーションを達成する手段について、ハーバードの教授が提唱しています。
僕も組織コンサルでいろいろな組織を診ていますが危機感がない組織はいくら組織改革をやっても結果はでません。これは非常に大切な事なのです。
次に連携を作るチーム。要するに組織改革のチームずくりです。トップとミドルとジュニアをバランスよく編成します。なぜジュニアを入れるかというと、将来的には伝道師のために入れるんですね。
このように、マーケッターは全体俯瞰で組織を動かしていくことで、商売そのもの全ての領域を担う事なのです。
あと、ビジョンと戦略、ここが非常に大事です。この組織は何をなしとげるんだというのが明確になれば優秀な人がきます。全部大事ですが、すごく大事になってくるのが、6の「短期的成果を実現する」これは大事です。
ミッション・ビジョンを作るとビック・サクセスをみんな求めるのですが、そんな簡単にできません。なので、スモールサクセスを見つけて、これを横展開して真似してください。これが組織変革のポイントです。これが今日の話にもつながりますが、文字でいうより映像でいったほうがいいことが、沢山あります。
シンプルにいうとこういうことです。組織としての危機感がまずあること。そして、組織を巻き込んでビジョンを明確にし、浸透させること。ビジョンが映像になるまでの精度をあげる。この映像ってすごく大事です。
幹部が一枚板になること。成功している組織の幹部のコミュニケーションはすごく深いです。あとはビジョンへの道筋、階段ですね。これを作っていく。
私は色々なキャンペーンをやっていますが、やっていることは組織作りだと思います。それと桃太郎さんにどうやったらなれるのか常に考えています。
「俺をフェラーリに乗せてくれ」といったら誰も助けてくれませんよね。でも、あの村民を助けると言ったら、ノーとは誰も言わないですから。
そうすると社内が動きます。次に世の中も動くのです。
僕が今まで20年間くらい蓄積してきたことを15分間で話しました。キーワードは「言動一致」、言っていることとやっていることが正しい人は好かれます。そういう組織になりましょうということでした。
田中様×金海対談
金海ー 何度も田中さんとお話させていただき、伺っていて特徴的だと思うところは、マーケターというと、アイデア一本というイメージがあるんですが、そうではなくて、「組織を巻き込む」この部分が非常に関心もおありですし、長けていらっしゃるところかなと思います。
お客様に受け入れられるビジネスを続けていく上で、組織の巻き込み方についてここからお話を伺っていきたいと思います。
早速なんですが、質問が大きく2つあります。
1つ目ですが、吉野家といえばもちろん牛丼です。最近は唐揚げにも注力されたり、コアになる商品を少し増やしていらっしゃる。そういったラインナップを増やしていく中で、何か気を付けていらっしゃることはありますか?
田中ー もともと吉野家は今年創業から123年なんですが、BSEで牛丼が売れなくなるまで本当に牛丼一本で高収益を出せる驚異的な会社でした。
単品ブランドを作った日本のチェーンの最初の存在と吉野家は言われています。ですので牛丼を売ることに対しての仕組みや熱意は文化的に強くありました。そうした中で、牛丼以外を売ることがどれだけ大切かということに数年間注力しました。
その結果、「吉野家らしい」とは何なのか、吉野家は世の中から何を求められているのかというところにマッチした時に、彼らに火がつきます。そうして店長達が我が事にした時に、初めて現場は動きます。なので、ここの説明を丁寧にすることに一番力を注いでいます。
金海ー ありがとうございます。
2つ目の質問です。先ほどのダイオウイカ天もそうかと思いますが、外食・小売等で、新たな商材や戦略施策を検討・実行する時にヒントになる着眼点やポイントはありますか。
田中ー 先ほど言いましたように、オリジナルな存在意義が重要です。
僕は10年前に社長から「これからは健康訴求だ、食べたら食べただけ健康になる牛丼を開発する様に」と言われました。
それで「ライザップ牛サラダ」を開発したのですが、これも具体的な構想から実現までに3年かかっています。
発売1ヶ月前までライザップサラダというネーミングでした。吉野家らしさが一つも入っていない。そこで考えました。お客様は吉野家に何を求めているのか。それは「牛肉を腹いっぱい」だよねと。それで「ライザップ牛サラダ」と変更した、ほんのちょっとしたことなんですが、非常に大事です。
お客様は御社の商品に何を求めているんですか?ということを最後にちょっと外から眺めて下さい。その時に商品名や戦略をもう一回見直してほしいです。
トップの方が現場に入ってしまう時は特に、最後に一歩引いて、オリジナルな存在意義をもう一度見極めて下さい。御社の商品である意味とはここにある、というのがポイントです。
金海ー なるほど。そうすると我が事化と連動するといいますか、オリジナルなところから出発した本物のストーリーができて、それが我が事化につながっていって、数字につながっていく。
金海ー 先ほどでていたお話で、お客様の提供価値と業務効率ってどうしてもトレードオフに見えがちなんですが、お客様へ提供価値を上げながら効率を上げていくということを主題でパートを進めていきます。
Cliplineをご利用いただいている中身としては、商品施策、先ほどのライザップ牛サラダもそうですが、こういったことをやりますよというお話の展開と、後は現場で教育に使っていただくですとか、あるいはエリア単位で独自の取り組みの情報発信にも使っていただいています。
少し中身をご紹介しながら、田中さんにも質問していきたいと思います。
金海ー 10月付けの日経新聞でホールディングスとして純利益が50%増だったというニュースが出ました。もちろん助成金という話もあるんですが、値上げですとか高価格商品の投入で単価があがったということでした。
私の経験上、単価を上げると客数が減って売上のトータルは下がるという傾向があるのですが、そうではないというのが吉野家さんの強さだと思います。
田中ー これは皆さんもご経験あるかと思いますが、単価を上げるって怖いですよね。
きちんと調査をしても、でも最後はお客様の判断になります。でも結果的にこういう結果になりました。
やっぱりこれは本当に日々現場がどれだけきちんとしているか、それが全てだと思います。
金海ー ありがとうございます。その秘密をぜひ解き明かしていきたいと思います。
まずは本部から1,200店舗を巻き込んでいく、我が事化していくというと、なかなか大変だと思うのですが、その辺りの秘訣はお答えいただいたかと思います。
オリジナルのところから出発するストーリーを作っていくということと、我が事化させていくところがポイントであるという話かなと思っております。
では実際に現場への落とし込みを行っている映像をご紹介しますと、なかなかポスターだけで伝わりきれないところを店舗で穴埋めし、推奨していくようなことをやっています。
こんな風に店内掲示物を出すんですよとか、作り方など、現場が迷わないようにしているということかなと思います。
田中ー 文字だけとか、今のZ世代は特に読まないですからね。
金海ー なるほど。調理の動画も説明の仕方ですとか、こういったものを全て動画上で一元管理されている。
田中ー Cliplineさんと出会うまで、本当に吉野家ってマニュアル第一主義の会社だったのですが、マニュアルは全部映像に変えています。
金海ー ありがとうございます。そういう意味ではまさにこういう絵かなと思うのですが、前は本社でマニュアルを作ると、支社で一部自分たちで解釈しやすいように書き換えるということがあったと伺っています。あくまで支社単位で研修をやって、それが現場に伝わっていくという話でした。
今はCliplineだと、マニュアルを作ったらそれを各自がそれをそのまま見られるようになっています。これによってもともと新商品の投入サイクルが短くなったとお話を伺っております。
田中ー ベースにあるのは、先ほどいったESなんです。要するにあれだけの人件費が削減できるというのは大きいんです。
金海ー なるほど。ありがとうございます。
こういった商品展開以外にも、コミュニケーションの活性化による顧客価値・単価向上でもお取り組みを進めています。
色々な商品をお勧めする動画があるんですが、勧めるのは今買ってくれということではなく、吉野家にはこんなに色々な商品があるんだということをお客様に知ってもらって、また次来た時に、ああそういえばこんなのあったなと思いだしてくれたら、それでいい。
つまり、今いる目の前のお客様の単価を上げようではなくて、お客様に吉野家をもっと知ってもらって、体験価値を上げてもらおう、こういう取り組みです。これが先ほど客単価が上がってもお客様が離れていかないというものの秘訣の1つかなと思います。
田中ー 我々は地域ナンバーワンになろうとすると、最大競争相手はコンビニさんだと思っています。コンビニさんに牛丼が並んでいたら、きっとあっちもおいしいですよね。では僕らは何が勝てるかといえば、あったかさと人しかないという風に思っています。
金海ー 話は変わりまして、人材育成の用途でも活用いただいております。
初日にまずこれをみましょうねという塊がいくつかあって、二日目からは接客のロールプレイをやっていきましょう、となり、ClipLine上でしっかりと教育カリキュラムを組んでいただいております。
中身を流してみると、てきぱきやっていく、こういった粋なサービスというのが吉野家なんだと、これもまさに文字で「粋」なんですといってもよくわからないんですが、映像でみると、理解ができる。
コロナで増えたテイクアウトも、こういう風にやるんですよという案内を、30秒の動画にしておくと、ぱっとそれだけみればいいという形でやっていらっしゃいます。
実際に働いている方にも見ているだけでなく、実際に投稿していただくということがあって、自己紹介を上げてもらってここにみんながコメント付けるとか、身だしなみを投稿してもらって、上司からOKをもらう。
吉野家さんはどうしても24時間営業をやっていらっしゃるので、夜勤に入られる方ですと実は店長さんとほとんどあわない、そんなケースもあったりすると聞いています。
そういう時に直接シフトで会わなくても声をかけて上げられる。新しく入られた方の自己紹介にコメントを書くですとか、身だしなみに対して、「すごくいいよ!」とか「あのお客さん、すごく喜んでくれていると思いますよ」とか、そんな形でやっていらっしゃいます。
ということでざっと紹介したのですが、本部試作の落とし込みなどを含めて、動画を活用するということ、これが短い動画であるということの有効性についてコメントいただけますでしょうか?
田中ー 最近YouTubeの方やインスタグラムの方と話しますが、短尺の映像が今のZ世代にはすごく利くし、実はZ世代だけでなく、40代・50代みんな見ているんですよね。
なので引きのいい映像というのは結構大事で、昔は端末だけでしか見れなかったんですが、今後はIphoneでも見れるように検討しています。なので家に帰ってみてみたり、自由時間に見てみたりという効率が、先ほどのESにつながって行くと考えています。言葉では伝えきれないことを映像はできる。
短尺に関しては、今いいましたように、トレンドがそっちにいっていますね。YouTubeも今一番、短尺が見られるようになっています。なのでこれはもうトレンドなんでしょうね。
金海ー ありがとうございます。動画が短尺であるということを使って、先ほどの本部から現場への情報発信ですとか、あるいは教育のカリキュラムを展開し、現場の負荷を下げながら、質を上げていきます。
金海ー 他にも、ミドルマネージャー、吉野家さんは支社という単位があるんですが、支社単位の独自の取り組みなんかもあったりします。
例えば、最近は、北日本は「うな重をがんばってやっていこう」、関東は「つゆだくの正しい盛り付け方」を練習しよう、中日本は「基本のお肉を煮る」、西日本は味付けしていわゆる「映える」というものを意識してやっていたりとか、こそれぞれの独自の色を出しながら運用していることもあります。
中日本吉野家さんだと、芸能人のニコルさんを出して「にこるん牛丼」を出しています。これをしっかりお勧めしていこう、こういう施策をちゃんと数字に繋げていくということ、自分たちでやっていけるようになるという意味をこめて、動画を展開していらっしゃいます。
店長用にこんな風に業務をやっているんだよと指示しながらも、お店のスタッフさんには実際にお勧めを一回、カメラをお客さんだと思って練習してみようという形で実践していらっしゃいます。
田中ー 効果的ですよね。自分が映ると全然違いますから。
金海ー そうですよね。やっぱり自分でやっているのと、はたからみるのでは全然違うというのはありますよね。こんな勧め方されても、あんまりおいしそうに見えないなと思ったら、次からまた改善してみようと思う、こういうのが非常に大事なんじゃないかと思います。
また、例えば東北ではうな重の予約アップを目標に、こんな形で今10%OFFやっていますよというのを、各店舗から投稿してもらうと、うちの店は10%OFFを分かりやすくやったぞと思っても、隣の店のほうがもっと上手くやっていたんだとなると、それをもうちょっと真似して進化させたくなりますよね。
田中ー これはスモールサクセスの横展開に使えるんですよね。小さい良い事例を映像でみたほうが真似しやすいですよね。
金海ー 北関東さんでは親子丼を、これも非常に長い年月をかけて開発されたと伺っています。具体的に何に時間がかかったのでしょうか?
田中ー 「半熟トロトロ」というのが非常に難しいんです。 什器をちゃんと毎回拭かないと焦げるんです。それこそ今はCliplineできちんと動画化しているんですが、商材から全部きれいにしても最後この上をひと手間拭くだけで、焦げる・焦げないが違うんです。この発見に10年かかりました。
金海ー なるほど。すごいですね。こだわりの商品をちゃんと現場で徹底できるようにしっかり情報発信してやっていきましょうという取り組みを北関東さんではやっていらっしゃるというお話です。今の話、聞くか聞かないかだけでも、作る側の気持ちも全然違いますよね。
田中ー 全然違います。やっぱりこれだけ僕らはトロトロといって、現場でトロトロじゃなかったら嘘つきになる、すなわち言動一致の徹底ですね。
金海ー ちなみに沖縄では「笑顔写真」ということで、笑顔コンテストをやっていただいているなど、非常に多岐にわたる使い方をしていただいています。
こうして店内販促・掲示物チェック、つまり売上につながるようなものはしっかりお客様に認知してもらうようにやっていく。その指示をだすだけではなく、実際にやっている様子を写真を撮って送ってもらって、他の拠点でも見られるようにする。
こういうことで「そのやり方いいな」とお互い見合う、こんな使い方ですね。それ以外でもいわゆる店内の清掃状態のチェックですとか、そういったものにも使っていただくということで、非常に使い道は色々あります。実際にこんな形で使っていただいております。
金海ー 本部主導の施策もあれば、エリア単位でやっていることもあります。これは成功するために、混乱しないためにはどういう工夫をすればいいんでしょうか?
田中ー これはやっぱりさっきのお話に行きつくんですが、「吉野家のオリジナリティになっているか」、それと「難しいことをシンプルにできているか」です。
売れる商品ってシンプルになっていますよね。さっきのトロトロも一言で表現するのに10年かけているんです。そのためには仕入れから作り方から、やっぱりアルバイトの方にこの10年かけた思いをぶつけても、作れるわけないじゃないですか。これをどれだけシンプルにするか、シンプルにできないと従業員もお客様に伝えられないですよね。「シンプルであること」が重要です。
本部の施策って大量に流したがるんです。その情報をどれだけ本部でコントロールして優先順位をどうつけるかがポイントです。大量にやるからこそ優先順位をつけてあげないといけない。
本社っていうのは机上で120%の企画を作りがちなんです。でもこれを現場に押し付けられても120%はできないです。だったら50%でもいいので、現場の腹におちる、そこのオリジナリティをどう作るかに力を注いでいってほしいですね。
金海ー なるほど。ありがとうございます。一方でスタッフさんご自身の意欲・能力を上げていく。こういう仕掛けも一方で必要だということで、吉野家さんではさまざまな取り組みをされてますよね。
田中ー いくつか本部主催のコンテストというのがあります。コロナになってもCliplineをうまく併用して、リモートも含めてやっていただいているところもあります。
サービスの部分の、接客部分のコンクールもあれば、肉盛りグランドチャンピオンと呼ばれるものもあります。丼ぶりにお肉を盛る「肉盛り」、これは非常に奥の深い世界だそうで、熟練者の動画がClipLineにも上がっています。
金海ー今はオンラインで予選をやって、本番もオンラインでするところもあるんですが、Cliplineを使って、そこに投票います。その本番の様子も映像を作って、これまたCliplineで流して今日本一を競っているレベルというのはこういうレベルなんだと、みんなが見えるようにしている。そのような使い方ですね。
田中ー 年に一回「肉盛りチャンピオン」を決めているんですが、スキルに到達しなかったら、チャンピオンがいない年もあるんですよ。非常に厳しいです。うちの社長もこの最終審査に残れなかったそうです。
金海ー 最後になるんですが、まとめとして、変化する環境や業界をリードし、組織に利益をもたらすには何が重要なのでしょうか?
田中ー 先ほどいいましたように、ビジョンが重要です。この会社は何のために存在するんだ、ということを考えること。
例えば吉野家だと儲けたいから牛丼をやっているわけではないですよね。
我々の牛丼というものを作った会社なので、これを広めるために創業者がレシピを皆さんに提供いるんです。要するに牛丼というジャンルがなかった、ジャンルを作った会社なので。とすると、牛丼屋がどうこう、競合がどうこうというのはおこがましいと創業者に怒られてしまうと思うんですね。
だから我々は何のために存在するんだと考えると、「食の安全」と「牛肉を腹いっぱい食べられる」ことです。ではそのために次の未来、次の100年を何のためにやっているんだということが結構大事だと思います。
その結果、安心・安全なものを提供している、という組織力があって、先ほど申し上げた単価を上げてもお客様が来て下さるというのは、ありがたいことですよね。
なので、日々の現場の方がちゃんと何を提供しているかということを、ちゃんと腹うちしてできていると、単価上げてもお客様は離れていかない。
ここが重要だと思うので、「何のために存在しているんですか」「何を提供している会社なんですか」この視点がすごく大事ですし、ではアルバイトの方にここまで説明するのは無理かもしれませんけれども、吉野家と吉野家以外は何が違うかを店長がちゃんと説明できるようになるくらいシンプルになっているのでお客様に支持される。
そして「ESのためにやっている」という意識も重要です。DXもESのためにやっているんです。従業員が働きやすいということは、シニアの方も女性の方も働きやすいし、環境にいいはずですよね。なのでやはり利益のためでなくて、存在価値のためにまずやるということが一番大事じゃないかなと思います。
金海ー ありがとうございます。まさに今日のタイトルの「パーパスドリブンによる価値創造」とはこのことだと思いました。