<事例講演>
「すし銚子丸」の持続的成長を支えるものとは?
“全店フルオーダーへの移行”など大きな変化の中で
「愛される店舗」を生む仕組み作りの勘所
株式会社銚子丸 代表取締役社長 石田 満 氏
株式会社銚子丸 おもてなし部 副部長 兼
研修指導課長 三浦 正嗣 氏
課題としては教育レベルのばらつきですとか、サービス品質の向上ですとか、オペレーションが標準化、これがなかなか徹底しきれない、こういったところを解決すべくClipLineを使っていただいています。
もともとe-ラーニングの仕組みがあったのですが、それをより高い次元で変えていこうということで、教育カリキュラムとして、OJTも含めた形ですね、それをやっていただいています。
またスキルをきちんと評価する人材育成の仕組みも合わせて構築していただいているということが、一つの大きな特徴だと思います。あと先ほど私のセッションでもお話ししましたけれども、ClipLineサーベイというお客様の声を集めるツールというのも入れていただいて、これは高速に回していくということも活用いただいています。
成果としては、約3000人いらっしゃる従業員の方の学習の進捗が追えるようになったようになり、色々な好影響が出ているとのことです。
先ほど三浦さんに伺った話だと、横浜に新店舗ができ、非常にこれが好調で、そこでもClipLineを活用いただき、サービス品質の向上によって、お客様の満足度が前年に比べて10%上がっている、新たな施策の対応精度が上がっているなど、具体的な成果につながっているということです。
石田:我々は、外食を体験として提供するということが創業以来ありまして、ですから、銚子丸のお店は「銚子丸劇場」と言っています。そこで働く従業員は「劇団員」と呼んでいるわけですけれども、その劇団員が良質な外食体験を提供するということが、お客様の満足度アップにつながる。満足度がアップすれば売上が必然的に増大していきまして、売上が増大すれば、もちろん利益も増大していきます。
利益が増大すると、人に投資する、改装に投資する、それから支払い余力が出る、そうして資金の余裕ができます。そうすると、魅力的な会社ですから人が入ってきて、人手不足の緩和になります、というサイクルを回していく。
人が潤沢になれば良質な外食体験の提供がなお一層良質になっていくということで、これをぐるぐる回しましょうよというのを、2年ぐらい前から社内に向けて発信しています。
これを簡単に言うとその通りなのですけれども、実際に回し始めるのがすごく大変なのです。回し始めるのが大変なので、この良質な外食体験というのを説明しながら、じゃあ何をすればそういうふうな結果が出るか、基本的にはやっぱり劇団員が腹落ちしてくれないといけないのですね。ですから例えば皆さんの働く環境を整えましょう、報酬についても納得のいく形での報酬制度を作りましょう、既存店にお金をかけていきましょう、などということを伝えて、実行することでやっと従業員がその気になってきました。この循環が今1周目回るところ、というところです。
最終的に目指していたのは、適正価格の実現です。今はからずもコストアップで押されて、適正価格に近づいた売価になっていますけれども、基本的にはこの段階での構想では、提供するサービスを素晴らしいものに変えてお客さん納得づくで適正価格を実現しましょう、ということを言い始めていました。
ですから今、売価変更は既に行っておりますが、以前に比べれば良質な外食体験が、お客様の納得のもとに少しずつ提供できている実感があります。これを何周も回していくことでどんどん良くなっていく、そういうようなことを考えているわけでございます。
金海:ありがとうございます。まさに絵だけで見れば理想の形ということなのですが、そこをめがけてやっていくにあたって、オペレーションを磨こうというだけではなくて、働く環境を整えるですとか、報酬ですとか、設備投資も含めて複合的に捉えてやって来られたいうのが一つのポイントだったのかなと思いました。このあたりもう少し深くこの後を伺えればと思っています。
これとつながる話で、その元にある強さをしっかり大事にしていくということもきっとその土台としては必要だと思っています。銚子丸さんの特長としては個店の強さがあると思うのですが、ここをもう少し伺ってもよろしいでしょうか。
金海:ありがとうございます。その一方で、入社された当初に明確に感じた課題もあったと言うことですね。
石田:私は2014年の1月に入社し、その年の8月に社長になるのですが、入社して3ヶ月経ったところで創業者に、「うちの会社をどう思うんですか」と言われたものですから、もうその時、感じていたまま申し上げました。全く管理職が育ってなかったんですよ。
トップからの命令が一人一人に下っていって、その一人一人が言われた通りに動いて早く結果を持ってくる、というような感じだったのですね。指示されたことは徹底的にやります。だけど自分で考えて咀嚼して計画を立てて下に落とし込んでいって組織として成果を上げよう、という社風は全くなかったのです。これを何とかしようと思い、私なりに会社を改革するためにいろいろなことをやらせていただきました。
金海:まずは働き方改革ということで、営業時間の見直し、繁忙後の店休日を作る、こういったことをやってこられたということなのですが、少しご紹介いただいてもよろしいでしょうか。
石田:創業者が亡くなったのが2016年の6月です。そのタイミングで、「銚子丸2.0」「新生銚子丸」といったメッセージを創業家の常務取締役と共に宣言しました。宣言したのはいいんですが、その旗印として、入社以来ずっと考えていた「人材育成企業」という言葉を使いました。
人材育成を何よりも根本にした会社にしていきましょう、と考えたときに、目の前にあった課題が残業など、その働く環境の難しさだったんです。ですからそこをまず改善しようということで、従来の残業見込み給を減らし、基本給を上げることで残業時間を減らしました。
そうすると協力者が現れてきて、だんだんに信頼が厚くなって、
そこから先も下記のような取り組みを色々と行っていく中で成果が上がってきました。
金海:その手応えを感じたのが実は結構最近だったという話も伺っていまして、その辺りを伺っていきたいと思います。
前回、石田社長からお話を伺った時にやり方として非常に面白いなぁと思いましたのが、目標をしっかり渡して、そのやり方は「自分で考えなさい」と伝える。ただし結果はしつこく追いかける、そこがポイントのような気がしたんですけれども、いかがでしょうか?
石田:あんまり細かく指示を出すとやっぱり反発する人が現場で多いんですよね。ですから基本的にはこれやってほしいんですっていうことを言って、やり方は任せる。その代わり結果をしっかり見ていってチェックする、ということを本部でやっていきました。
例えば残業削減するという時は、お店で働いている全員の勤怠を毎日本部でチェックしました。そしてできていない人にピンポイントで確認し、軌道修正させながらやっていく、これが一番良かったかなと思っています。
例えばコロナ禍での営業時間を決めていくことだとか、今やっています勤務間インターバル制度というのも、同じように本部で細かくチェックする、でもやり方は個店ベース、個人に任せていくというような形で行い、今成果が出ているところです。
金海:ありがとうございます。そういった取り組みをされている中でさっきのキーワードで「良質な外食体験」というのは非常にいい言葉だな、働く方々の背筋が伸びるような言葉だなと思いました。
もう一点、フルオーダー化のところを少し伺えればなと思うんですが、どういった経緯で決断に至ったのでしょうか?
石田:フルオーダー化に関しては、いずれしないといけないことだったんです。というのは、回転寿司って売れたお皿の色はわかるんですけど上に何が載ってたかわからなかった。250円のお皿がこれだけ出ましたっていうのはわかるんだけど、じゃあ上に載ってたのはなに、というと、データ化できていなかったんですね。ですからいずれ単品管理しなきゃいけないっていう中では、フルオーダーに行かざるを得なかったということは事実なんです。
銚子丸らしくないとかっていろいろお店では反発されたんですけれども、メリットに関しては自信のあるものだったので、これは絶対やろう、という方針の下進めました。コロナ禍ではやらざるを得ないものだったかもしれませんが、コロナ後の新しいお店作りの中でオペレーションを作っていくことになりました。
金海:ありがとうございます。ということで実際チャレンジしてみると、業績としてはいかがだったのでしょうか?
石田:基本的に言うと売り上げが効率よく上がりました、ということと、人件費等でプラスの数字は出ています。
金海:ありがとうございます。ここでここまでのまとめになるんですけれども、人を中心とした業務改革を打ち出していたということで、その中のポイントが、やり方を自分たちで考えさせ、目標に対する結果に責任を持たせること。こういうところが大きなポイントだったのかなと思っています。
安藤:ではここから私の方で進行を進めさせていただきます。多店舗現場が抱える課題への対応というところで、今回4つのテーマで三浦さんの方にお伺いしたく思っております。まず1個目なんですけども、人手不足をどう対応していくか、具体的な取り組みをお伺いしてもよろしいでしょうか。
三浦:今数店舗にロボットを入れています。もう入れて半年ぐらい経つのですが、現場の方の意見は素晴らしく、ある店ではもう1台欲しいといった声は上がっています。
利用の仕方で言うと、配膳ももちろんですが、他には例えば、我々ではお誕生日のお客様にはデザートをサービスしています。その際、コロナ前はスタッフが大きな声でハッピーバースデーの歌を歌ってやっていたのですが、コロナに入ってさすがにできなくなってしまいました。そこで新店である六ツ川店では、このロボットがハッピーバースデーを歌ってデザートを運んでいます。これも結構ユニークなサービスとして好評をいただいていて、ロボットは引き続き取り入れていこうと考えています。
人材定着という部分では、職人の育成ですね。今までは銚子丸に入ると職人としての独り立ちの目標を5年としていました。素人さんが入って5年あれば銚子丸の職人として、握り、仕込みを任せられるということだったのですが、今は3年を目標に掲げています。
2年ぐらい前に他社の外食、焼肉屋さんから入った方がいるのですが、握りの責任者である座長と呼ばれる職位に1年目でなって、来年にも店長として活躍できる状態になっています。その土台がClipLineなのです。このClipLineの動画をしっかりと視聴していることでここまで育ったということも聞いています。
以前は写真も撮ることもなくマニュアルもずっと紙、 文字、文章だったんです。それを今はどんどん板前の技術をオープンにしていこうということで、動画にしています。そこには今まで職人がやってきた技術、すし職人の技術を初級から上級編まですべて動画にし、例えば仕込みの動画に関しては今65本ぐらい揃っています。
今まで職人さんが30年かけて覚えてきたものを全部動画にしています、これを見てください、ということでパートさんにもすべてオープンにしています。
エリアマネージャーの方からも、今まで隣について教える時間が非常に長かったのですが、 OJTを割愛できるような仕組みがClipLineによって生まれたことで助かっているという声も出ています。
安藤:ありがとうございます。続いて従業員教育というところのお話ですが、教育と評価という仕組みづくりですね。これも独自の取り組みですが、ClipLine導入時から検討し、進めていた「真打制度」について、具体的にどのような制度なのかお話いただけますでしょうか。
三浦:教育に連動した評価制度として、落語の世界の真打制度をなぞった4段階の制度にしています。その中で最上位の真打は、ホールの業務、握りの業務、仕込みの業務、銚子丸の全ての業務がだいたい項目にすると150項目くらいあるんですが、それをすべて合格された方になります。
マネージャーたちが1店舗ずつ回ってその人たちを チェックしていくのは絶対無理ですので、ClipLineのToDo機能やテスト機能を使って遠隔でテストをし、真打制度を広めることができました。
今3200名ぐらいスタッフがいるのですが、208名が「真打」バッジを左胸につけています。そのうち女性が11名。さらにパートさんもいて、握りもホールも仕込みも厨房作業も、いろんなことができるパートさんが誕生し、モチベーションを上げているような形になっています。
安藤:ありがとうございます。もう一つ教育の仕組みというところでご紹介ですが、先ほど野中先生のSECIモデルという、暗黙知の形式知化という話もあったかと思うんですけども、商品部の基本の焼き方、玉子焼きの焼き方というクリップもあれば、プラスして店舗の座長の方の玉子の焼き方もClipLineに上げていただいたりしています。基礎編があるからこそ応用が生きるということだと思うのですが、このあたりもお伺いしてもよろしいでしょうか。
三浦:人気商品である玉子焼きはお店で焼いているのですが、だいたい1本焼くのに7分ぐらいかかります。今までは、職人さんにより焼き方もバラバラ、時間もバラバラ、手順もバラバラ。出来上がったら最終的に玉子焼きにはしっかりとなるんですが、でもこれをパートさんたちにもちゃんと覚えてもらいたいということで、すし職人出身の商品部長が動画化した基礎的なものを作りました。
これがお店の方にどんどん拡散していきましたが成田店に名物座長がおり、その方が基本の玉子焼きの上を行くような玉子焼きを考案しました。最後に巻きすで、玉子焼きをくるっと巻くとロールケーキみたいになるんです。それがお客様に非常に好評だということで、それを今度動画化してお店の方にアップします。それが横展開し、今では10店舗ぐらいはこの玉子焼きを出せるようになってきました。動画でナレッジをデジタル化することによってアルバイトさんたちでもこういった玉子焼きが焼けるような環境になっているのかなと思っています。
安藤:はい、ありがとうございます。こういった他の店舗の方の優良事例やノウハウは従来現場に行かないとなかなか見られないものでしたが、こういった動画にしていただことでより広く共有できると言うことですね。
安藤:続いて店舗改善というところの機動力のお話なのですが、先ほどご紹介させていただいた、ClipLineサーベイというものを導入いただきました。以前は手書きのハガキでお客様からアンケートを回収されていて、それを本部で回収してまた集計して現場に戻すにはかなり時間かかっていたと伺っています。
サーベイを入れることでリアルタイムにお客様のアンケートの内容も確認でき、さらにデータも可視化されるというところもポイントだったのかなと思います。
導入いただいた効果、お店の方がどう変わっていったかというところをお伺いできますでしょうか?
三浦:アンケートは今まで紙をカウンター席とテーブル席に置いていました。それをお客様に書いていただき、だいたい多い月で1,000枚ぐらい本部に届いていました。コロナもあり、ボールペンを触りたくない、などいろんなお客様が出てきてしまったので、ちょうど安藤さんに紹介してもらって全店舗切り替えたのです。
そうするとすぐに今までの2倍の2000件ぐらい届いたんですよね。こんなに届いてくれるんだったらもっともっと深めていこうということで、今全店舗に導入しています。
一番いいところとしては、今まで紙ベースですと本部に届くのはだいたい1週間か2週間後で、それに対してClipLine サーベイではお客様が席で回答していただけると、即時に社長、経営層、部長、地区のゼネラルマネージャー、エリアマネージャー、お店に瞬時に届きます。
店長は現場なので、実際すぐに見ることができない場合もあり、その場合はマネージャーもしくはゼネラルマネージャーがカバーし、すぐ改善ができるような仕組み作りを行っています。
石田:サーベイのすごく良いポイントとして、お客様が強く改善を要望されているようなところは改善要望の可能性ありって分析した結果を送ってくれるんです。優先順位が送られてきたところで既についていて、どこから読むべきか、というのがはっきりしているので非常に助かっています。
安藤:あともう1つ、”新たな取り組みに対する実行力”というところもポイントになるかと思うので、お話を伺いたいなと思っています。先ほどの真打制度を進めるにあたっても、まずは現場のアルバイトの方からではなくてマネージャーから制度の浸透を進めていただいたというところがポイントだったのかなと思いますが、このあたりのポイントについてお話伺えますでしょうか。
三浦:ClipLineの導入時も、ゼネラルマネージャーとエリアマネージャーが30名近く今いますが、まずそこから促していきました。例えばさっきの真打制度というものも、まずはエリアマネージャーにやっていただきました。
マネージャーとか店長が、パートさんたちにこれやってください、と言う前に、まず自分たちがやっていきましょう、まず自分たちが真打になってください、という話をして、2ヶ月〜半年くらいで真打になりました。マネージャーたちに話を聞きましたが、改めてもう一回基本の業務作業を振り返ることができた、というような声を聞きました。
まずそこで上がしっかりと手本を見せる、率先垂範することで下の方たちにもここまで広がってきたと感じています。
安藤:ありがとうございます。この辺り実行力が上がっていったポイントだと感じています。
三浦:左上が仕込みです。うちは鮮魚が毎日10品程度入っています。その時の旬のものですよね。例えば貝類だったり、光物だったり、白身だったり、結構技術的に難しいです。例えば赤貝ですと殻からきていますので殻の剥き方、剥いた後の手順、あと内蔵の処理、いろんなものがあります。仕込みに関してはお店の中で一番仕込みが丁寧で綺麗で早い人の動画を撮りに行きました。それがお手本です。その方たちをまず目指していこうということで惜しげもなく技術を動画化しています。
リニューアルしたグランドメニューの手巻き寿司の巻き方などもしっかりと動画にしていますが、お店の中で一番技術がある方をお手本とすることで、新卒の方々も目標にしていく、それが実際のお客様の方にアウトプットとして提供されていく、と言う形が実現できているのかなと思っています。
金海:ありがとうございます。最後に、もっとやってみたいこと、ClipLineに期待していることがあれば、石田さん、三浦さんそれぞれ簡単に一言いただいてもよろしいでしょうか。
石田:私はClipLineの高橋社長と一番初めに会った時に聞いた、遠く離れているお店の状態がリアルで見られるっていうのがどうしても頭から離れないでいるんです。教育の面ももちろんそうなのですが、遠隔マネジメントの一つとして、現場のリアルが見られるっていうところをもう少し工夫して何か導入できないかなと思っています。
これによって少ないマネージャーの人数で、多くのお店が把握できるということにつながるんだろうと思っていまして、そこを今一番に考えています。
三浦:人の育成から最後、例えば社員では定年までこのClipLineを通じてしっかりと教育していきたいなと思っています。今、ClipLineさんと経営ダッシュボードの構築を進めています。例えばそこで総合的なお店の店舗力を数字で測れたらいいなと思っています。数字が低いものがあればそこをどうやって直していくのか、ClipLineでの実行も含めた仕組みを作っていきたいと思っています。
あとは今まで我々はどうしてもマネージャーへ投げかけるだけだったのですが、現場で働いている方たちに直接本部から投げかけるような仕組みにしていくと、中間層のマネージャーたちの時間的な手間もなくなってくるのかなと思っていますので、そうした仕組みにもしていきたいなと思っています。
金海:ありがとうございます。大変たくさんお話しいただきまして、本当はあと1時間くらい欲しいところなのですが、お時間ということで、石田さん三浦さんの熱い期待に応えられるように我々も頑張っていきたいと思います。
本日はありがとうございました。