多店舗・多拠点ビジネスを悩ます
構造課題を乗り越え、
利益を生み出すために必要な打ち手とは

<基調講演>
多店舗・多拠点ビジネスの最適な意思決定/実行を生むデータ活用
成果創出のためのデジタルとの向き合い方
ClipLine株式会社 取締役COO 金海 憲男

多店舗・多拠点ビジネスの実行と成長を阻害する「バラつき」とその原因

サービス業などの多拠点ビジネスに取り組む企業の利益の最大化を考える上で、必要となるのは当然ながら1店舗・拠点ごとの利益を上げていくことにある。
そして利益創出の源泉となるのが"人の手によるサービス"であると考えると、その成長を阻害するのが多拠点ビジネス特有の構造課題が引き起こす「バラつき」の発生であり、その抑制を行うのが利益創出の第一歩だとClipLineは考えている。

ここで言う「バラつき」の抑制とは、店舗や従業員、サービスの個性を潰す、均一化するということではなく、現場で最適なサービスを提供する上でのオペレーション、教育レベルや、施策や企業理念の理解度について、店舗や従業員ごとの差を無くして底上げし、店舗が本来の力を発揮できる状態になるということを指している。

その「バラつき」は店舗・拠点単位だけではなく、企業活動全体にも影響を及ぼしていく。
例えば、本部主導でアプリ展開によるリピーター獲得、あるいはテレビCMなどの大規模な販促施策を打っても、現場ごとに施策の理解や実行力にバラつきが発生したまま実行しても、投資対効果が下がる非常に非効率な結末を迎えてしまうのだ。

ではなぜ、そもそもそのバラつきは生まれてしまうのか。キーワードとなる構造課題は「ピラミッド構造による伝言ゲーム化」と「砂時計構造によるボトルネック化」であると金海を解説する。

伝言ゲームとは、経営層が発した情報が、いくつもの階層を経て現場へと共有されていくうちに、当初と異なった内容になってしまったり、しっかりと伝わりきらなかったりする状態を指す。

一般に、多店舗・多拠点展開しているサービス業では、三角形のピラミッド型な組織構造を有している。経営層をトップに、役員、部長・課長。その先の店舗を統括するスーパーバイザー(SV)から各店舗の店長、現場メンバーまでが非常に大人数で構成される。また、現場に近くなればなるほどメンバーを増えていく、三角形の組織構造であることがほとんどだ。そのため、まるで伝言ゲームのような状態で情報が共有されて行ってしまうのだ。

もちろん、各社とも情報伝達に手を打っていないわけではない。一般に、SVなどミドルマネジャーまでのコミュニケーションは、非常にコストをかけて密に行われているはずだ。
コロナ前までは、どこかに集まって集中して会議などを行う企業も多かっただろう。しかし、その先の現場までの情報共有手を付けられていないケースは少なくない。ミドルマネジャーまでは熱心にコミュニケーションをする一方で、その先にいる店長や現場スタッフへの情報共有を拠点ごとに任せてしまう例も見受けられる。そうして、経営層が考えていること、実行してほしいことが現場まで伝わりきらなくなってしまう。こうした状況は「サービス業のラストワンマイル問題」とも表現できる。

もう一方の「ボトルネック化」とは、上述したような組織・情報共有の構造により、ミドルマネジャーだけに情報が集中してボトルネックになってしまう状態を指している。経営層からの情報も、現場からの情報も、中心にいるミドルマネジャーが引き受ける形になる。本来、ピッチャーとキャッチャーが一対一であるはずが、キャッチャー1人に対してピッチャーが複数人いるようなものだ。これでは機動的なアクションをとることができない。

必要なのは「見せる化」とマネジメント構造の改革

では、こうした課題を解消するにはどうすべきなのか。ポイントは「変化が生み出しやすいポイントの提示」「見せる化」だ。
例えば、数百店舗を展開する飲食業で、コスト削減の施策を打つ例で考えると分かりやすい。飲食業でコストを削減するには、仕入れ先の変更や代替食材の検討、メニューのポーションを見直すことなどの施策が考えられる。ただ、これらは店舗ごとに異なる客層や利用ニーズによって効果が左右されてしまう。ある種、「言い訳」が立ちやすい施策といえ、現場での実行にバラつきが生まれやすい。

 そのため、現場での施策を促進するためには「変化が見えやすいポイントはどこか」を考えてみるのがよい。例えば、食材ロスやオーバーポーション・アンダーポーション、メンバーが余った食材を食べてしまう不正行為などは、店舗特性に左右されにくく、各店舗で平等にデータ計測や施策実行ができるものだ。こうしたものを切り出して、データを基に実行していく。

 データを共有する際、単に可視化しておく「見える化」では不十分で、「見せる化」をする必要もある。具体的には、店舗ごとのデータや他店との差分をSVと店長に共有し、「何が課題か」「どんな取り組み余地があるのか」をディスカッションしてもらうこともセットにする。データと行動を結び付けるのだ。さらに「いつまでに何をするか」までを決めるようにして、定期的に報告してもらう仕組みを作る。すると、データを見る→課題と施策を実行する→成果や新たに生まれた課題を基に、施策を検討する——といったサイクルが生まれ、現場の実行力が高まるはずだ。

 こうしたデータとアクションを紐づけたマネジメント構造を実行できれば、多店舗・多拠点ビジネスにおけるバラつきの要因である、構造課題の発生を防ぐことができるだろう。
 

多拠点サービスの価値と利益を高めるプラットフォーム:ABILI

上述したような多店舗・多拠点ビジネス特有の課題を解決する打ち手として、ClipLine株式会社が新たに発表したブランド「ABILI」。「ABILI Board」「ABILI Clip」「ABILI Voice」「ABILI Partner」の4サービスで構成されている。

ClipLine株式会社ではこれまで、「『できる』をふやす」をミッションに、多店舗・多拠点ビジネスを展開する企業の現場における実行支援にフォーカスしてきた。コンサルタントとして企業の中に入り、二人三脚で課題解決から成果創出までを取り組んできたメンバーが中心となって、動画プラットフォーム「ClipLine」を展開。売り上げ成長やSV1人が担当できる店舗の増加によるコストの最適化、離職率の減少など「目に見える財務成果」を出せる点がポイントとなり、幅広い業界・数多くの企業で導入されてきた。

今回、これまで提供していたClipLineをアップデートする形でABILIを発表した。背景には上述した課題を受け、特にサービス業において、全社・現場ごとに点在する情報を一気通貫で参照できること、その情報をもとに「実行力」を高めていきたい、というニーズが高まっているという点が大きい。

ABILI Boardは、「『店舗戦闘力』を可視化する経営コックピット」と表現できる。点在する拠点ごとのデータから、メンバースキルや稼働時間、役割といったさまざまな切り口で強みや課題を抽出。課題発見から改善に向けたシナリオを作るための全社ダッシュボードとして活用できる。データ収集から加工、統合といったこれまで高負荷だった業務を簡略化できるだけでなく、経営と現場が同じ目線でデータを参照できるようになるのも特徴だ。

これまで提供していた「ClipLine」をアップデートしたのがABILI Clipだ。短尺動画で本部と現場、現場間をつないで多店舗・多拠点ビジネスのマネジメントを一気に効率化、品質の向上を実現する。ベテラン店員の接客を動画にして若手が学習できるようにしたり、店舗ごとの売り場作りにおける好事例を共有したり、非常に幅広い活用シーンが見込める。上述した施策実行のバラつきを解消するにはうってつけのツールだ。

3つ目のABILI Voiceは、顧客の「声」を集めるツール。よりスピーディーに現場や本部へのフィードバックを簡単かつ安価に実行できることで、PDCAサイクルの高速化に寄与する。顧客調査の際、重要なのは「鮮度」だ。一方、従来型の顧客調査では設問設計から本部での分析、現場への共有までに数カ月を要する企業も少なくない。ABILI VoiceとABILI Boardをともに活用することで、非常にスピーディーな調査の実施と、情報の鮮度を保ったまま現場へと共有することが可能になるはずだ。

ABILI Partnerは、ここまでの3サービスをいかに組み合わせて活用するか、ClipLine株式会社で蓄積してきた知識やノウハウを共有しながら伴走支援するサービスとなっている。実際に支援を行う担当者にも大手外食・小売チェーンででの店長経験者なども多く在籍しており、従来のSaaSツールのカスタマーサクセスに比べより踏み込んだ支援が可能だ。
また、ABILI Clipでの動画作成も、今後はABILI Partnerとして提供していく。社内のコミュニケーションにおいて「動画」は非常に効果的なツールとなり得る。一方で、動画作成は非常に負荷が高く、多くのリソースを要してしまう。ClipLine株式会社のこれまでの知見を基にして、ユーザー企業が自社で賄うよりも安価に、そして高品質に動画制作を実現できるのもABILI Partnerの魅力だ。

必要なのは地図とコンパス=ABILI

多店舗・多拠点ビジネスにおいて重要なポイントは、膨大なデータを「平均」ではなく「群」として捉えること。そして、群の中で「バラつき」に着目して、いかに解消できるかだといえる。その際に見るべきデータは売り上げ・利益だけではない。売り上げや利益の背景には、顧客満足度・リピート率、さらにはサービス品質とそれを下支える従業員の定着率や満足度——といった要素が複雑に絡みついている。これらのデータを横断的に、スピーディーに把握できるのがABILIの強みといえる。

 データを基にした戦略や施策を、現場でムラなく実行していく際に欠かせない「変化が生み出しやすいポイントの提示」と「見せる化」も、ABILIを構成する各サービスによって実現するだろう。講演は次のような言葉で締めくくられた。

 「組織改革は高く、険しい山の頂を目指すようなものといえます。そこで必要なのが、現在地を示す地図と進むべき方向を示すコンパスです。そして、ABILIはまさに地図とコンパスのようなツール群です。当社では『初期診断』として、課題のヒアリングや分析もトライアル的にお引き受けしていますので、多店舗・多拠点ビジネスでお困りごとがあれば、いつでもご相談ください」