企業経営で重要なのは
現場の「実行力」と「主体性」
ひらまつが掲げる、これからの成長戦略

<対談セッション①>
”ライフタイムバリュー”の創造に向け、
ひらまつが進める経営改革

株式会社ひらまつ 代表取締役社長兼CEO 遠藤 久 氏

V字回復を実現した、新たな価値創造に向けた改革

 「“ライフタイムバリュー”の創造に向け、ひらまつが進める経営改革」では、日本マクドナルドを皮切りに、多店舗展開する飲食・小売り企業へ長らく携わってきた株式会社ひらまつの遠藤久CEO、ClipLine株式会社からは高橋勇人社長と齋藤誉執行役員が登壇した。

 日本マクドナルド株式会社や株式会社すかいらーく、株式会社エムアイフードスタイルといったサービス業での経験が長い遠藤氏。株式会社ひらまつに当初、顧問としてジョインした2日後に緊急事態宣言が発令されるなど、非常に厳しい船出だったという。長い歴史を経る中で、内部でも課題を抱えていた。

 同社は1982年、フレンチレストランとして創業した。その後、レストランウェディングや「滞在できるレストラン」をコンセプトとしたホテル事業など食をキーワードにしたビジネスを展開。一方、多彩なポートフォリオを有しながら、事業間の連携や組織内のチームワークが薄いことが課題だったと遠藤氏は振り返る。

 「日々の業務に取り組んでいると、どうしても社内のつながりや連携できるポイントを見逃してしまいがちです。ただ、一歩引いて『顧客』や『人生』という視点に立つと、ひらまつとしてもっと提供できる価値がある。そこに非常に大きなチャンスがあると感じていました

 そこで遠藤氏はどう取り組んだのか。ClipLine株式会社の高橋からは「これまでの遠藤さんのご経験といえば、どうしてもマクドナルドのイメージがあります。扱う商品や客単価が倍以上違う環境で、これまでの経験がどう生きたのでしょうか」との質問も飛んだ。 

 遠藤氏の回答は非常に明確だ。単価や客層、扱う商品こそ違うものの、意識していることは常に一貫しているという。それは「いかに会社に眠っている価値を引き出すか」だ。

 そこでまず取り組んだのが「箱の外」へ出ること。これまで「ひらまつ」として、素晴らしい食事体験という価値を訴求してきたが、これからの時代にはさらなる価値訴求が必要になる。そのためには、もともと持っていた「土台」にとらわれずに新たな視点を持つことが必要だ。メニューのネーミングやストーリー、食材のこだわりなど、新卒〜入社2、3年目の若手社員や、外部パートナーなど、様々なステークホルダーの意見を取り入れられる環境を構築したという。

 もちろん、目指すべきゴールやそこへ向かうための戦略をいかに緻密に練ったとしても、実行が伴わなければ意味がない。遠藤氏も「どんなに素晴らしい戦略であっても、実行できなければ意味がありません。この実行が、最も重要なポイントだと捉えています」と語る。現場の実行力を高める上で意識したのが、各メンバーの主体性だ。遠藤氏自らが現場へ出向き、直接意見交換をしながら考えや想いを引き出し、メンバー自身が自分ゴトとして改革に取り組めるように腐心したという。

 こうした取り組みの結果、株式会社ひらまつはコロナ前の売り上げを上回るほどにV字回復。今後は新たに立ち上げた事業の収益化や、さらなるビジネス展開を狙っている。

現場の主体性と実行力を引き出すための「可視化」の重要性

対談では、現場の主体性を引き出すためにデジタルツールを活用する必要性についても話が及んだ。そこで挙がったポイントが、全社のデータや業務プロセスを一気通貫で可視化することの重要性だ。ClipLine株式会社の高橋社長は、遠藤氏がかつて在籍したマクドナルドの例を引き合いに出しながら次のように話す。

 「マクドナルドがすごいなと感じるのは、莫大なシステム投資をして現場の教育に生かしている点です。サービスプロフィットチェーンの各データを可視化・分析することで、現場の取り組みがいかに売り上げや利益につながるのかを、メンバーが実感できるようになっています。昨今ではクラウドサービスの普及で安価にデータの可視化や分析ができるようになっているので、あらゆる企業でそうした仕組み作りが可能になっていますので、そんな動きがどんどん進んでいくといいですね」

 「全社のプロセスを一気通貫に可視化すると、店舗間や事業間の連携もどんどん生まれていきます。すると、効率性を高めて収益性を最大化することにもつながるはずです。一気通貫、というのは非常に重要な視点だと感じています」(遠藤氏)

 ClipLine株式会社が新ブランドとして立ち上げたツール群「ABILI」も、そうした思想から生まれた。高橋社長は次のように背景を話す。

 「これまでは現場での実行支援に重きを置いて動画を軸にしたマネジメントサービスの『ClipLine』を提供してきました。それに加えて、昨今、経営陣が社内のデータを横断してモニタリングし、課題や施策を確実に現場へ共有する機運が高まっていると感じています。また、現場のメンバー自身がデータへアクセスできる環境も求められているのではないでしょうか。そこで、社内のデータを一気通貫で可視化し、課題の抽出から現場での実行までをサポートする新ブランドとしてABILIを立ち上げました

 自社のさらなる成長に向けて、遠藤氏も次のようにABILIへ期待を寄せている。

 「ぜひ、現場がデータを見て主体性を持って働ける、そしてビジネスの改善につながる。そんなツールとして、さらに使いやすくなるよう磨きをかけていっていただけるとうれしいです」(遠藤氏)