人手不足時代のキーワードとは 多店舗・多拠点ビジネスの”壁”を超える方法

<主催者講演>
人・組織・経営の「できる」をふやし、業績向上を実現するプロセス

〜サービス産業・多拠点ビジネスの成長に欠かせないもの〜
ClipLine株式会社 取締役COO 金海 憲男

ClipLine株式会社は3月6日、「NEXT STEP〜変革のその先へ〜 成長を実現する経営戦略と“道筋”を考える」と題したイベントを開催した。イベントでは、外部環境の変化が相次ぐ中で、これからの価値創出や力強い成長のために経営者・リーダーが考えるべきテーマに、各界から有識者が集まり、セッションを展開した。

 

本記事では、その中からClipLineの金海憲男(取締役COO)による講演を基に、人手不足に直面するサービス業が、人手不足の中で採用だけに頼らず、売り上げ・品質を維持して利益を高めるポイントについて解説していく。

考えるべきは「シェア拡大」 そのためには付加価値向上が急務

人手不足が深刻化し、採用やつなぎとめに苦労する企業は多い。とはいえ、今後にかけて人手不足はさらに深刻化していく。国内の人口は2010年から2020年までの10年で235万人も減少したが、2020年から2030年にかけては、その3倍弱である658万人の減少が見込まれている。ビジネスはもはや「人材が不足している」という前提で組み立てなければならない時代となっているのだ。

また、着目すべきは人手不足だけではない。人口が減少するとともに多くの市場が縮小するため、既存市場でいかにシェアを高めていくか、価値を提供していくのか、に目を向ける必要がある。

こうした状況は、「ワニの口」のような図で示せる。縦軸に「サービスレベル」、横軸に「時間軸」をとると、企業が直面している「現実」は、時間が経過するほどに人手が不足してサービスレベルも低下する、右肩下がりにグラフになる。

一方で目指すべきは、どんどんと競争力を高めてサービスの品質を高めていく、右肩上がりのグラフだ。この、何もしなければ開き続けていくワニの口を閉めるためには、
まずデジタル化などで人間の仕事を置き換え、さらに次のフェイズとして人間ならではの付加価値を強化していく必要があるといえる。従って、DXは「人間の置き換え」だけでなく、付加価値を向上するためのツールとしても捉える必要がある。

エンゲージメントは重要だが、注意点も

とはいえ、人手不足だけでなく採用した人材の離職、加えて事業における付加価値の強化や現場の生産性向上等、1つだけでも複雑な課題がいくつも重なり合うことで、解決の難易度は非常に高まっている。

 

そんなときは、一歩引いて「メガトレンド」つまり社会の大きな流れに目を向けるのも有効だ。例えば、1学年当たりの人口を見てみよう。すると、現在40代の人口は最大で180万人でボリュームゾーンであることが分かる。一方、20代はおよそ120万人、0〜9歳にいたっては100万人を割っていることも分かる。
加えて、マイナビが発表している、大学生アルバイトが1週間当たりにシフトに入る時間に関する調査結果も見てみよう。すると、週3日がボリュームゾーンであり、週4〜5日もシフトに入るような人材は少ないことが分かる。その分接点も少なくなり、エンゲージメントを高めていくのも難しくなっている。

 

マイナビの調査では、アルバイト探しにおいて「シフトの融通が利く」「自宅から近い」「学業への理解がある」といったポイントが必須条件となっており、決め手となった要因でも「応募後にすぐ企業から連絡がきた」「時給やシフトの融通などの勤務条件について詳細を教えてくれた」など、単なる「働き手」ではなく、一種「お客さま」的な扱いを求めていることが見えてくる。

ただ、従業員におもねることはつなぎとめに有効かもしれないが、より本質的な、企業への愛着や貢献の意思を高めるエンゲージメントにはつながらない点には注意が必要だ。

「当社では経営者向けのラウンドテーブルを実施しているのですが、ウォルト・ディズニー・ジャパンや日本マクドナルドで人事責任者を務めてこられた、落合亨さんが非常に興味深いお話をされていました。エンゲージメントをどう高めるべきか、という質問に対して『エンゲージメントと従業員満足度を混同してはいけない』とおっしゃったんですね。つまり、満足度と貢献したいと思えるかどうかは別物だということです」
 

ここまでをまとめると、人手不足への対応だけでなく、いかにシェアを獲得していくかも重要な視点だと分かった。そのためには、業務の効率化だけでなく、人間ならではの付加価値を強化していく必要もある。そこでのカギがエンゲージメントとなるわけだが、単におもねるだけでは不十分だ。では、どうすべきなのか。

キーワードは「多能工化」と「絆」

キーワードとなるのが「多能工化」と「絆」だ。まず、多能工化について見ていこう。

 

「西友の社長を務めている大久保恒夫さんが、生産性を高めるためのポイントとして多能工化をお話しされていました。西友では、レジ担当の従業員に総菜の調理方法を教えるなどして、多能工化を進めているそうです」

その他、星野リゾートの例も挙がった。星野リゾートでは、従来の業務が細分化していた点に目を向け、これまでは布団を畳むことを専門にしていたような従業員たちの多能工化を進めていった。当初は現場から反発もあったそうだが、顧客との接点も増えたことで、良い影響をもたらしているという。
 

これらの事例を基にすると、多能工化には3つのポイントがあるといえる。まず、従業員1人当たりが対応できる業務の幅を拡大することで、繁閑期などの「波」に対応しやすくなる。加えて、キャリアのステップを示すことにもつながり、離職率の低減にも効果があると考えられる。最後に、人材が幅広い業務を経験することでサービスレベルの向上にもつながる。

次に、多能工化と並んでキーワードとして挙がった絆とは何か。マイナビの調査によると、アルバイトをすぐにやめてしまった人が回答した理由のうち、上司や先輩から理不尽な指導があったことや、人間関係が上位を占めている。つまり、採用した人材をつなぎとめるためには、職場の人間関係も重要なファクターになる。

暗黙知を動画化し、拠点間の情報共有も促進 スーパー「オオゼキ」の事例

多能工化と絆を組み合わせて成果を出しているのが、スーパーマーケットの「オオゼキ」だ。同社には「オオゼキは人で売る」という理念があり、従業員の教育や関係づくりに注力している。

  そんなオオゼキが導入しているのが、ClipLineの提供している「ABILI Clip」だ。
 

一般的に、多店舗・多拠点サービスには「ピラミッド構造による伝言ゲーム化」と「砂時計構造によるボトルネック化」という構造課題がある。前者は、組織の階層が増えるにつれて情報共有が伝言ゲーム化し、当初の意図が伝わりきらなかったり、現場での実行にバラつきが生じたりする課題を指す。後者は、ミドルマネジメント層に情報が集中してしまい、スムーズな情報共有をさまたげるボトルネックになっている状況を指す。
 

ABILI Clipは、短尺の動画を使って多店舗・多拠点ビジネスにおける現場と本部、あるいは現場間などをつなぐことで、これらの課題を解消するサービスだ。従来は伝授しにくかった「暗黙知」であるノウハウの共有や、成功している現場の施策を横展開するために導入する企業が増えている。
 

オオゼキでは、魚のさばき方などの暗黙知を動画の教育コンテンツにした多能工化や、フェアで売れ行きが良い店舗の施策を横展開することで、絆が生まれるきっかけにしているという。
「例えば、バレンタイン商戦で面白い施策をしている店舗があれば、ABILI Clipに様子を投稿して、本部からアドバイスをもらったり、他の店舗が参照したりしているそうです。その結果、売り上げに良い効果が出ています。その他、これまでスーパーバイザーが足を運んでいた臨店をリモート化しているともうかがっています」

人的資本経営は「ROI」で考える

昨今は「人的資本経営」を耳にする機会が増えた、バズワード化する中で、人的資本経営をうたったサービスも増えているが、実情は従来同様の教育・人材管理ツールにとどまっているケースも散見される。

 

経済産業省の定義によると、そもそも人的資本経営とは「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」である。そのため、どの人材に何を投資するか(Investment)という視点と、どうすれば最も資本効率が高まるか(Return)という視点から、ROIの考え方で向き合う必要がある。

 

ただ、人材への投資と結果(利益)の間には、いくつもの変数があり把握が難しい。例えば、客数が少ない店舗は、まずリピーターが少ないのか、新規客が少ないのかを特定する必要がある。さらに、リピーターが少ないのであれば満足度が低いのか、それとも近隣に競合店がオープンしたのか——といった形でいくつも枝分かれしていく。

 

もちろん、それぞれの変数は社内で把握しているものだが、縦割りで管理しているケースがほとんどであり、横串を通して把握できない企業も多いはずだ。加えて、サービスには「無形性」や「消失性」といった特徴があり、数字で把握するのがそもそも難しい。

「変数」を一元管理して、未来の予測も可能にする

こうした課題を解消するために、それぞれの要素を可視化して一元管理できるツールが、「ABILI Board」だ。
ABILI Boardでは「店舗戦闘力」として、「誰が何をできて、どのレベルにあるのか」「誰がどのくらいシフトに入れるのか」といったデータを可視化できる。すると、スーパーであれば「鮮魚」「精肉」といった部門ごと、時間帯ごとに戦闘力を把握でき、他店舗との相対評価を通した偏差値も確認可能だ。

 

「『平日の午前中は戦闘力が高いけど、午後は弱くなるね』『ベーカリー部門が他店舗と比較して弱いね』といった形で、解像度が高い議論ができるようになるはずです」

ABILI Boardでは、Googleのレビューを取り込むこともできる。直近の評価と業績を照らし合わせることで、近未来の業績を予測した打ち手の検討なども可能になるはずだ。

この他、ClipLineでは、タイムリーに顧客の声を把握できる調査ツール「ABILI Voice」やABILIのソリューション群を導入する際に支援するサービス「ABILI Partner」、加えて従業員のスキルをチェックしたり、昇格のワークフローをカスタマイズ・管理したりできる「ABILI Career」を展開している。

 

「当社のABILIは、一つのプラットフォームとして皆さまの多能工化や絆の構築などを支援いたします。企業変革は成功確率が低いものと目されがちですが、山登りのように、外部の力を適切に借りて実行することで、成長のチャンスは広がります山登りにおけるパートナーやシェルパがABILI PartnerとABILI Clip、そしてABILI Career。そして、現在地を知るためのコンパスは、ABILI BoardとABILI Voiceです。ぜひ、何かお困りのことがあれば、当社までお声がけください」(金海)

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