人手不足時代に、外国人スタッフのマネジメントで考えるべきことは? データと有識者から学ぶ
人手不足が深刻化する昨今、企業はDXなどとともに外国人スタッフを活用していく必要性にも直面している。そこで植原は、ClipLineが過去にスーパーバイザー・店長などの管理職と、外国人材やその指導に当たっている人を対象として実施した調査結果を基に、現状を紹介した。
管理職が店舗業績を高める上で課題に感じていることでは「新人教育」「ナレッジ共有」「品質向上」「コミュニケーション」が目立つという。また、新たなオペレーションや変更があったものの現場への落とし込みについても、6割以上が「十分にできていない」と感じている。スタッフへの教育方法では「店長が教育をする」が54%、「本部が開催する研修に監査する」が35%で目立った。まとめると、自分たちが教育する環境にありながら、さまざまな部分で「やり切れていない」と感じている管理職が多いようだ。
業務に関する指導では、50%が日本語、21%が母国語でなされていることが分かった。また、指導方法では「現場でのOJT」が圧倒的で、72%が回答した。
このような指導はどのような結果をもたらしているのか。外国人スタッフ側の9割弱は、指導の結果「一人でできる」「時々助けがあればできる」と感じている。一方、指導する側で「安心して任せられる」と感じている人は39%と、双方にギャップが生じているようだ。独り立ちまでの時間でも、外国人スタッフの7割弱が「30時間以下」と回答したが、指導者側で「30時間以下」と回答した人は3割弱にとどまった。
こうしたギャップが生まれる要因について、植原は「業務内容や求められる態度の水準が、スタッフに十分に伝わっていないのではないか」と指摘する。例えば、外国人スタッフが希望する指導方法として最も多く回答が集まったのは「ひとつひとつの仕事について見本を見せてほしかった」で、4割に及ぶ。ほとんどの企業でOJTがスタンダードとなる一方、しっかりと業務の水準を伝えきれていない現状が浮き彫りになる結果だ。
企業の外国人スタッフ活用に関する企業コンサルティング経験が豊富な淺海氏は、現状をどう見ているのだろうか。同氏は「自信」を持って業務に当たれるような環境が重要なのだと指摘する。その一つとして有効なのが、マニュアルの整備だ。
「ある岐阜県の建設系企業では、社長自らが中国語を学び、その上でマニュアルを整備して外国人スタッフを支援しています。広島県の造船系企業でも、外国語の専門用語集やマニュアルを作成し、現場での指示に活用しています。これらに取り組むことで育成コストの減少にもつながりますし、非常に有効な施策といえるでしょう」(淺海氏)
マニュアルの整備は、そもそも日本人のマネジメントでも非常に重要な施策でもある。ClipLineが提供しているABILI Clipを導入して、同様の新人教育環境を整えた企業では、退職率の減少や在籍期間の改善に成果が生まれていると植原は話す。
一方、特に複数言語のマニュアルを整備する場合は、翻訳にお金も時間も発生する。AIによる自動翻訳が増えてきたとはいえ、専門用語に対応するのはなかなか難しい。そこで淺海氏がアドバイスするのは「一般語彙」と「専門語彙」などに分け、適材適所でコストを抑える方法だ。
「自動翻訳が容易な一般語彙でどんどん自動翻訳を活用し、より専門的な用語を交えたマニュアルの作成や、幹部候補生の育成など、コストをかけるべきものを見極めて支援をしていくのが良いのではないでしょうか」(淺海氏)
自信を持って業務に当たれる環境とともに、もう一つ重要なのがスタッフの適性を見極めたり、適切に配置したりといった「可視化」だ。
「企業の支援をする中でよく相談を受けるのが、採用の見直しです。多くの企業はまず採用をするのですが、異文化マネジメントに長けている管理職がいる現場へ配置せず、機械的に人材を割り振るケースも散見されます。すると、採用のミスマッチが起こり、双方に細かいストレスが積もり続け、業務効率や生産性の低下につながってしまうのです」(淺海氏)
そこで紹介されたのが、管理職の能力をデータ化することだ。淺海氏の支援実績企業で、ある多店舗小売り企業では、全てのエリアマネジャーを対象に異文化マネジメントに関する調査を実施し、数値化。優秀なマネジャーの取り組みも合わせて調査し、研修動画を作成することでナレッジの共有にもつなげているという。
またある企業では、国内でメジャーな日本語能力試験の「JLPT」ではなく、欧州でメジャーな言語能力の国際基準である「CEFR」を採用。JLPTは総じて日本語を読んで回答する形式であり、主に語彙力→言語知識を測る試験だが、CEFRでは「読む」「書く」「話す」「聞く」のスキルが6段階で定められており、自社がどのようなスキルを求めているのかを可視化できる。
「JLPTの最上位であるN1に合格した外国人のスタッフであっても、実は『話す』ことに関してままならない、ということはよくあります。JLPTは会話力ではなく言語知識に関する試験ですから、仕方のないことです。しかし、多くの日本企業ではJLPTを基準に外国人スタッフを採用していますよね。CEFRであれば、外国人スタッフのスキルと自社が求めるものを可視化し、採用時のズレをなくせます。人材の定着においては非常に重要といえるでしょう」(淺海氏)
ClipLineの顧客でも、可視化をマネジメントの高度化につなげているケースは多いという。「当社が提供しているABILI Boardでは、各現場の力量を『店舗戦闘力』という形で可視化できます。スタッフの勤続年数やスキルを基に力量を定義することで、マネジメントに役立てているケースも多くみられています」と植原。
セッションの結びとして、外国人スタッフも交えてマネジメントを高度化していくポイントを植原は次のように締めくくった。
「今回は、主に『教育』と『力量の定義』の2点の重要性についてお話してきました。教育については、マニュアルの整備などで教えやすく、学びやすい環境を整えることが重要です。それによって、教える側の効率化や省人化、教わる側の自信ややりがいにつながるでしょう。
力量の定義については、淺海さんからCEFRの紹介などがありました。これによって、採用・育成・評価の基準を作成でき、ミスマッチの減少や育成スピードの向上につながるはずです。さらに今後は、社内に眠るデータの可視化や有効活用を進めていくことも、外国人材の活躍を支えるポイントになるのではないでしょうか」