職人技も動画とAIで学ぶ
-銚子丸が取り組む学び続けられる現場のつくり方-
採用難、人材の多様化、そしてサービスの質の担保。
飲食業界を取り巻く課題が複雑さを増すなか、「すし銚子丸」は、現場の“学び方”そのものをアップデートし続けています。
店舗に届いた一尾の魚をどうおろすか。お客様への接し方に、どんな所作や心配りが求められるのか。
動画教育とAIを組み合わせることで、経験の浅いスタッフでも即座に学べる環境が整い、職人の技や接客の感性すら可視化されるようになりました。
銚子丸の専務取締役 堀地様と、ClipLine代表取締役社長 高橋が、人が育ち続ける現場づくりとテクノロジー活用の現在地、そして今後の展望を語りました。
高橋:銚子丸さんは一都三県に92店舗運営されているお寿司屋さんで、魚の切りつけや握りから、接客も相当に力を入れていらっしゃいます。非常に業績も好調で、働き方改革とかDXを推進されているマネジメント先端企業だと思っております。店舗運営の現場における課題はどんなことでしょうか。
堀地:私が働いていた頃は、仕事は時間をかけて覚えていくのが基本でした。今は昔と違って、全く異業種の方々も入ってきますので、教育の仕方もだいぶ変わってきたなと感じていますね。
高橋:ゴルフ場のキャディをされていた方が転職されてきたり。
堀地:そういう方もいますし、駐車場で車を誘導していた方もいます。今は動画があることで教え方も人によるバラつきがなくなりましたので、覚えるのが楽になった感じがしますね。
高橋:なるほど。異業種への教育というのはある意味なじみやすいところもあるかもしれませんが、逆に長年職人として働かれている方は、自分のやり方があると思うんですけど、その辺はいかがですか?
堀地:それは逆に、ベテランの暗黙知を伝えるのに動画が非常に役に立ちますよね。感覚でしかわからないようなものを動画に残すことができるようになったのはすごくいいなと思っていますね。新人の方で、魚をおろすことができませんとか、寿司握るなんて無理ですとか言われる方でも、動画を見ると「私もできるかもしれない」と変わったりします。
高橋:結構モチベーションの向上につながるということですか。
堀地:もちろんそうですね。私たちの場合は丸の魚が店に届くので、あえて銚子丸でアルバイトしたいという職人さんもいたりします。
高橋:なるほど。人手不足の時代に敢えて機械化しすぎないことで、手に職がつくというか、旬な魚に触れるということ自体が実は募集の一つの強みにもなる。
高橋:いろいろな働き方があるんですね。
堀地:銚子丸では、自分が覚えたことを誰かにシェアするとか、誰かが覚えていることを学びに行くとか、お互いに学び合う雰囲気があります。ご年配の方は経験を持っている。若い人は元気さや力があるけど経験がない。ご年配の方は自分の経験を若い子に教えて、若い人はご年配の先輩にABILI Clipやスマホの使い方を教えています。
高橋:なるほど。いろいろな世代の方が一つのお店で働くと、コミュニケーションをとるのが難しいのかなと思ったんですけど、御社の場合にはむしろコミュニケーションが活性化する場面があるんですね。
高橋:ここからは実際の銚子丸様の環境に実装した新機能ABILI AI(ABILI Pal)のデモンストレーションをご覧いただきましょう。
ログイン後、右側のチャットでやりとりができます。例えば「サーモンのおろし方を教えて」という質問をすると、まずグレーの薄い文字が出てきます。AIはどうしても間違うことがありますので、ダブルチェックをしている状態です。OKなら黒字になり、関連するクリップ(動画)が提示されます。NGの場合にはこの内容は回答できませんと返します。
▲サーモンのおろし方について、まず解説の要約が表示される(グレー文字)
▲解説が確定した後、やり方を示すクリップ(動画)が提示される。
クリックで再生される。
仕組みとしては、登録された動画の書き起こしを事前に学習していまして、質問の内容に合う形で構成し直して解説分が生成されます。ですので、テキストだけ読んでも質問に対する回答になっていますし、より詳しく知りたければ提示される動画を参照することができます。
堀地:忙しくてなかなか質問しづらい中で、ぱっと見たいものが見られるというのはすごく助かるんじゃないですかね。
高橋:次に、「銚子丸の接客について教えて」と質問してみます。接客の雰囲気というのはなかなかテキストでは伝えられないというところがありますので、動画を参照いただくとイメージがしやすいですよね。
▲知識だけでなく、動画を見ながら場の雰囲気を丸ごと学習する
堀地:そうですね。いい接客をする板前さんは何を心がけているかとか、そういうものを形にして残すことで、新人の方も学ぶことができますね。最近だと海外に行く方が仕上げにうちのお店に来て鍛えてから海外に出ていくという方もいるみたいです。
高橋:わざわざ外部から学びに来る方もいらっしゃるんですね。それほどにノウハウが集積されているのでしょうね。
高橋:新機能のABILI AIについてご感想をお伺いしたいです。
堀地:今は採用もすごく難しくなってきているし、人手不足がどんどん進んでいて、店が出来上がっていても人が揃わなくて営業できないような環境になっています。ですから、今いる従業員の方がストレスなく学べることはとても重要です。わからないのに遠慮して聞けないとか、忙しくて聞きづらいとかがなく、自律的に学べる環境になったというのはとても大きな意味があります。あとは、働いている人たちが飽きが来ないように楽しく働ける環境を作っていくことと、新しいツールの導入などは担当者任せにせず、企業のトップがどんどん進めていくべきだと思います。
高橋:トップが積極的に進めていただけるお客様はやっぱり浸透も効果が出るのも早いと思います。一方で、必ずしもそういう企業様ばかりでもないので、我々もより現場に近いところからお役に立てるように開発を進めております。最後に、サービスの付加価値を上げるためにはどういうことが大事だと思われていますか。
堀地:日々、やらなければいけない仕事はたくさんあるわけですが、お客さまに満足していただくためにはやはり、お客様の方にきちっと目を向けられる時間をできるだけ多く作れるようにしたいなと思っていますね。
高橋:なるほどですね。今、省人化のテクノロジーも進んではいますけれども、やっぱり人が人に提供するのがサービスであるということなので、そこに、より時間を割けるように、ある意味無駄のない教育なりマネジメントができる環境を用意されたいということでしょうか。
堀地:「店長ボトルネック」の話がありましたがその通りで、店長が忙しすぎるんですよ。だから店長になりたい人が少ない。店長の負荷をどんどん削減していかないと、店長を目指したいという人が増えてこない感じがしますね。
高橋:なるほどですね。店長の負荷を下げるような環境を用意して、キャリアステップの道をしっかり確保し、店舗のスタッフが楽しく生き生きと働ける環境を作るということですね。ありがとうございます。
堀地元 ほりちはじめ(写真右):銚子丸専務取締役。1992年に入社後、事業部長、常務取締役、常務取締役営業本部長などを経て24年より現職。新しい働き方の導入や福利厚生の充実、DX推進、海外プロジェクトの推進など、経営基盤の構築に積極的に取り組んでいる。
高橋勇人 たかはしはやと :ClipLine 代表取締役社長。アクセンチュアなどでコンサルタントとして多数の多店舗展開企業の経営改革を主導。業界最大手の外食企業では、売り上げ数百億~1,000億円規模の業績向上と組織変革を完遂。2013年に独立し、ClipLine創業。
©2014-2024 ClipLine, Inc.