サービス業の要である
「人材」をモチベートし、成長を生むには
V字回復実現企業に学ぶポイント

<企業リーダーセッション①>

〜”聖域なき構造改革”が導いた事業再生〜
外食産業成長の鍵と再成長へのロードマップ

株式会社ヴィア・ホールディングス 代表取締役社長
楠元 健一郎氏

 コロナ禍で多くの業界が打撃を受け、その最たるものが飲食業といえる。一方、その間にいかに大胆な打ち手を講じられたかどうかがその後に大きく影響しており、昨今は各社によって明暗が分かれ始めている。

 例えば、2021年に事業再生ADRが成立した株式会社ヴィア・ホールディングスは、V字回復を成し遂げた代表的な企業だ。同社はコロナ禍までの数年、業績が右肩下がりで推移しており、さらにコロナ禍で大きな打撃を受けたにもかかわらず、長期的なビジョンの構築や巧みな人材戦略によって、見事な回復を成し遂げた。

 本セッションでは株式会社ヴィア・ホールディングスの楠元 健一郎氏が講演した「〜“聖域なき構造改革”が導いた事業再生〜外食産業成長の鍵と再成長へのロードマップ」を基に、多くの企業にとって参考になる組織改革の具体的手法を解説した。

コロナ禍以前から業績が低迷 経常赤字が続いていた

 ヴィア・ホールディングスはもともと1948年に印刷会社として設立。その後、業績が低迷したことをきっかけに再生支援としてすかいらーくグループの創業者一族が資本参加し、セカンドビジネスとして外食事業を開始した。

 グループには株式会社紅とんや株式会社フードリーム、株式会社扇屋東日本/扇屋西日本などがあり、一時は全国に500店舗超を展開。2013年に印刷事業の株式を共立印刷株式会社へ譲渡し、そこからは外食事業に専念している。直近ではグループ内で35業態・312店舗を展開する。

 講演を行った楠元氏はもともと株式会社大和銀行(現:株式会社りそなホールディングス)でキャリアをスタートし、その多くで企業の事業再編・再建に従事してきた。ヴィア・ホールディングスと関係を持ったきっかけは、東日本大震災で打撃を受けた同社の再建を目的に出向したことだったという。

 その後、2017年に常務執行役員としてヴィア・ホールディングスに入社。2021年4月から、すかいらーく創業者の1人である横川紀夫氏からバトンを受ける形で社長に就任した。

 当時のヴィア・ホールディングスの業績を見ると、2018年3月期からの3年度で売り上げが283億円から244億円へと減少。長らく経常赤字が続くなど、改革が急務となっていた。楠元氏は当時を次のように振り返る。

 「事業再編ADRの計画を立案するに当たり、2019年比でどの程度の水準にできれば黒字になるかを考えていました。当時はコロナ禍で営業がままならず、物流コストも上がるなどさまざまな課題があり、そんなタイミングでは、ともすると縮小均衡な計画を描きがちです。しかし、そうではなく『ひとまずここから3年を乗り越えて、その先をどうするか考えよう』という思いの下で中長期的な計画を立案していきました

重視したのは「生の声」 現場が忖度なく発信できる環境を整えた

 楠元氏が描いた成長に向けたロードマップは、大きく3つのフェーズに分かれる。具体的には「損益分岐を下げる経営意識の一新」「低投資のベースアップ・既存力の再醸成」「再成長に向けた投資・未来キャリア創出」の3つだ。

 これらの中で、楠元氏が特に重視したのが「人材」である。

 「以前から業績が右肩下がりを続けており、かつコロナ禍で打撃を受けた中での再生計画でしたが、やはり外食は労働集約的な部分も残っており、やはり人材がカギを握ります。特にこれまでの経験から、こうしたフェーズでは社内に“負け癖”がつきがちだと理解していたので、まずは現場のテンションをいかに高めるかに腐心しました

 組織のモチベートとして楠元氏が最初に取り組んだのが、現場の意見がしっかりと経営に反映されるという実感を持ってもらうことだった。そのためにITツールを導入し、現場から来た質問に対して、楠元氏が直接レスポンスする体制を構築した。さらに、並行して従業員サーベイも実施した。

 「まずは従業員から、不安と不満を吐き出してもらうことが重要だと考えました。しかし、ただサーベイを行っても、忖度された結果になりがちです。そこで、現場とのコミュニケーションをまず行い、忌憚のない意見が発信できる環境を作りました。その上でサーベイを行い、生の声を収集しようと考えたのです」

 サーベイなどを通して集まった声を基に、楠元氏自らさまざまな疑問に答える形で、コロナ禍真っ只中ではあったものの、2022年に全国で経営の思いを伝えるリアルミーティングを実施。時勢柄、参加は任意としたものの、95%ほどの従業員が参加したという。また、同時に実施したワークショップでは、ポストイットで4500枚ほどのリアルな声が集まった。

発信し続けることで、現場に変化が生まれていく

 そうして集まった多種多様な現場の声を基に策定したのが、2025年に向けた長期ビジョン「新生VIA未来ヴィジョン」だ。

 同ビジョンでは、ADRで金融機関から求められる事業計画がメインの「市場の変化に対応できる『仕組みのアップデート』」と、現場の声を基にした「サーベイからの学び」という2軸から、さまざまな内容がまとめられている。

 例えば、従来の「心が響き合う価値の創造」というコーポレートフィロソフィに加え「社員を豊かに幸せにできる会社」「日本社会の発展に寄与する会社」という経営理念を設定。前者に関しては「家族や友人に自慢できる」「会社や仲間から大切にされていると実感できる」といったテーマの他、「『従業員を豊かに幸せにしたい』、『日本社会に貢献したい』と、『本気』で『愚直に』取り組もうとしている経営者がいる会社」という項目も盛り込むなど、熱いメッセージが多数込められている。

 また、面白いのは「未来計画」として示した内容に、5年後の目指す姿として「圧倒的個人店集団」という言葉があることだ。一般に、平準化や均一化によって効率化を目指すチェーンストア理論とは真逆の方向性を行くメッセージにも映る。狙いについて、楠元氏は次のように語る。

 「チェーン展開している外食企業がこんなことを表現するのは、何となくタブーな気もしますよね。しかし、当社の特徴は、他の外食チェーンと異なり、セントラルキッチンがなく、調理に大きなコストをかけている点にあります。要は『人』による要素が大きいのです。この、人による部分を強化しなくては、再生はありません。そこで、チェーン店でありながらも、いかに個人性を発揮して、自主的な運営を行うか、といったテーマで現場をモチベートしようと考えました

 これらのビジョンを策定しただけでなく、粘り強く現場へ発信したのも、同社が再生を果たした要因といえるだろう。「発信し続けることは、私たち自身にもコミットするという覚悟がある、と示すことでもありました。とにかく発信を続けていると、現場が『また言ってるよ』という受け止めをしていたのが『やっぱりそうだよね』と態度を変える瞬間があり、そこをいかに逃さずに取り組みを進めるかが、非常に肝心です」と楠元氏は話す。

効率化は、「拠り所」があってこそ

 ビジョンの浸透という種まきを踏まえ、再生と再成長への具体的な実践のために楠元氏が挙げたキーワードが「新たな収益構造」と「本質への回帰」だ。この2点をアピールしたことについて、楠元氏は次のように振り返る。

 「再成長に向けては収益構造の改革が必要で、そこには当然DXなども含まれます。しかし、それだけでは不十分で、ある意味で精神論的な、拠り所となるものも必要だと考えました。そこで、当社の強みである店舗での火起こしや串打ちといった、ある意味でアナログな部分を本質=残すべき価値として再定義したのです

 DXなどの効率化をするにしても、手当たり次第に施策を打てば、特徴のないチェーンになってしまう。そうではなく、ヴィア・ホールディングスならではの強みをしっかり残しながら、それ以外の部分で効率化を進めよう、という二段構えの戦略というわけだ。

 この二面戦略の実践に当たって活用したのが、ClipLine株式会社が提供しているプラットフォーム「ABILI」と、同社のグループ企業で組織戦略の策定と実行の伴走支援を行っているChain Consultingのサービスだ。

 まず、計画の精緻化に当たっては、多拠点ビジネス特化型ダッシュボード「ABILI Board」を用いて1店舗当たりの利益に大きく影響する要素を可視化、コスト項目として特定し、重点的に改善取り組むことを決定した。
その上で、楠元氏を最終責任者とし、「人件費」「原価」「QSCA」「マネジメント」と4つのプロジェクトチームを組成。各チームが、ダッシュボードを通して店舗の状況をモニタリングし、オペレーションのバラつきを軽減することに取り組んでいった。

 その結果、プロジェクト開始前と比較して原価が1.3%低減、人件費も1.5%減少するなど、着実な成果が表れている。「主観によるオペレーションが目立っていた現場が、どんどんとロジカルになっていっている実感があります」と楠元氏は話す。

 楠元氏の手による、人材を主眼においた長期戦略の策定と現場への浸透、さらにABILI/Chain Consultingを活用したDX・変革に向けた伴走支援によって、直近の決算では売り上げが、コロナ前の水準に回復し、6期ぶりの経常黒字化といった成果も出ている。損益分岐水準も、2019年比較でかなり高まっており、これからさらなる成長への期待が高まる。

 今後について楠元氏は、現場の実行力が高まっていることを背景に、その上段にいる事業部長クラスの能力開発へ取り組むことを掲げた。組織の要ともいえる管理職にテコ入れすることによって、ヴィア・ホールディングスはどのような成長軌道を描くのか。今後も目が離せない。

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