人が辞めず、成長する企業の条件とは?
「マクドナルド」「ユニクロ」の事例から学ぶ
<基調講演>
マクドナルド/ユニクロ教育責任者が考える
人口減少時代の「組織と人の育て方」
株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン代表取締役会長
グローイング・アカデミー 学長
元 日本マクドナルド株式会社 ハンバーガー大学 学長
元 株式会社ファーストリテイリング ユニクロ大学 部長
元 株式会氏社バーガーキング・ジャパン 代表取締役社長
有本 均氏
人手不足が深刻化する昨今は「採用」だけでなく、いかに「定着」「成長」してもらうかも人財戦略の大きなテーマだ。こうしたテーマに取り組むのが、ホスピタリティ&グローイング・ジャパンの有本均氏である。有本氏はこれまで、日本マクドナルドやユニクロといった名だたる企業で、社内教育の仕組みづくりの責任者に就任。人が辞めないだけでなく、成長できる環境づくりに努めてきた。その経験を生かし、現在はホスピタリティ&グローイング・ジャパンで企業の人財育成を支援している。
「人口減少時代、今こそ問い直す“サービス”とテクノロジーのあり方〜多店舗サービス業の未来と競争戦略」から、有本氏によるセッションを基に、人口減時代の組織と人の育て方について、解説していく。
2012 年に設立したホスピタリティ&グローイング・ジャパンで、人財育成を通したサービス業の発展に取り組んでいる有本氏。キャリアの一歩目は、日本マクドナルドで踏み出した。
大学生時代にアルバイトとして働き始めると、店長業務へのあこがれを胸に入社。その後、複数店舗での店長業務を経験し、エリアマネジャー、統括マネジャー、営業部長とキャリアを歩んだ。40 歳ごろからは、社内大学「ハンバーガー大学」の学長に就任し、教育制度の確立に努めてきた。その後、ユニクロへと活躍の場を移し、こちらでも教育責任者ポストである「ユニクロ大学」部長に就任し、日本マクドナルドと同様に教育制度の仕組みづくりを行っている。
有本氏は、長く務めた日本マクドナルドを離れ、ユニクロに転職した当時を「スタッフの扱い方やコミュニケーションなど、これまでマクドナルドで『当たり前』だと思っていたものがユニクロではあまりにも異なっていて、衝撃を受けました」と振り返る。
一方で共通している点として挙げたのが「商品力」「人財育成力」「出店開発」「マーケティング」という 4 つの柱で、ビジネスが成り立っている点だ。もちろん、多くの会社はこれらのテーマに取り組んでいるが、4 つがそれぞれ単体ではなく、掛け算となって相乗効果を発揮している点こそ、両チェーンの強みだという。
中でも有本氏が「あらゆる業種業態と比較しても、圧倒的」と表現したのが、人財育成だ。
「人財育成とは、突き詰めるといかに『現場力』を高めるかです。現場での接客はお客さまの満足度に直結しますからね。この点について、どんな仕組みが良いのかを徹底的に研究しているのが、マクドナルドとユニクロではないでしょうか」
人財育成育成のポイントとして挙げた現場力について、有本氏はより具体的に「限られた予算や人員で、いかに最高の QCS を実現するか」と表現し、マクドナルドとユニクロでは最優先の指標とされていたという。さらに掘り下げ、現場力を高めるには「こだわり」「徹底力」「継続力」が重要だと話す。
「例えば、マクドナルドもユニクロも、マニュアル化が進んでいます。マニュアルというのは『この作り方が一番おいしい』『この接客が最も心地良い』という、ある種のこだわりを具現化したものです。そして、マニュアルを現場に徹底させて、継続させる。これこそ、両チェーンの優れているポイントです」
有本氏がこれまでの経験とともに、ここ 10 年の変化を踏まえて人財育成のポイントとして指摘するのが「会社が人を選ぶ時代が終わった」点である。合わせて、せっかく採用した働き手を辞めさせずに育てるポイントに「仕組み化」を挙げる。
「評価や教育など、育成が仕組み化されていないのは、言い換えれば上司の力量任せな状態です。特にサービス業は多拠点なことも多く、その分リーダー層も多いですよね。仕組み化できていないと、拠点や上司によって成長や成果に差が生じてしまい、モチベーションにも影響して離職につながってしまいます」
仕組み化すべきとして有本氏が挙げたのが「教育」「評価」「労働環境」の 3 つだ。
「このうち、労働環境に関しては、労働時間や有給休暇など、法律に絡む部分も多いので既に仕組み化している企業も多いと思います。一方で難しいのが、教育や評価です。これらは法対応と違い、取り組まないと処罰されることがありませんし、何より効果がすぐに現れませんから」
難しいながらも取り組むべき、教育や評価面での仕組みづくり。これから人手不足がさらに深刻化するからこそ、取り組むべきテーマでもある。特に Z 世代を中心に若い層は、入社後に成長できるかという軸で企業選びをする傾向が強く、将来的なキャリアやステップを可視化したり、成長意欲を満たせる制度を用意したりすることは、選ばれる企業への近道といえるだろう。
教育や評価の仕組みづくりでは、それぞれを単体で考えるのではなく、サイクルとして構築していく必要があると有本氏。そのモデルとして考案したのが「グローイング・サイクル」だ。
グローイング・サイクルは「基準を示す」「教える」「要求する」「評価する」の 4 段階で構成される。まず第 1 段階では、役職や部署、年齢や給料など働き手の属性ごとに「会社が何をしてほしいのか」を示す。経営理念や行動指針、マニュアルや就業規則などが該当する。
その上で、求めるものを実現するために必要なノウハウを、教育していく。このとき、念頭に置くべきなのは「義務教育」だと有本氏は話す。尖った教育をするのではなく、全ての現場で、全てのスタッフが同じ動きをできるよう、ノウハウの“底辺”を底上げする意識が重要だという。
なお教育に関して、多くの日本企業が OJT を採用しているが、この点について仕組み化の観点から、次のように警鐘を鳴らす。
「個々人の性格や才能だよりだけでは、決して人財は成長しません。中でも重要なのが OJT ですが、落とし穴があることに注意しましょう。というのも、多くの会社では『OJT』といいつつ、仕組み化されずに上司の力量に任せた丸投げが横行しているからです。
特にサービス業では現場での運用が見えにくく、細かく仕組み化、標準化するのがポイントです。例えばユニクロでは、週に一度はエリアマネジャーと店長が話す機会を設けるなど、フォローを徹底していました」
求めるもの、そして実現する方法を教えるだけではなく、その後の「要求」も重要だ。せっかくマニュアル化し、現場に共有してもムラなく実践できていないと意味がない。この要求は、特に日本企業が弱い部分だという。
「『集合研修を実施したのに、効果がないんです』と相談を受けることがよくあります。しかし、これは当たり前といえば当たり前なんです。研修後にすぐ売り上げが伸びるなど、学んでからすぐ身に付き、成果に結び付くことはほとんどありません。いかに後追いでフォローできるかが、学習の定着や実践においてカギを握るのです」
この点は、サイクルの第 4 段階である「評価」にもつながる。これまでのサイクルで教育した内容は、知識としてだけでなくしっかり行動に反映できているかを評価する。こうした仕組みを作り、サイクルを回せる職場こそ、人財が育つ職場なのだ。
セッションの最後、有本氏は各種の調査を紹介しながら、日本企業の教育への投資額が圧倒的に小さいこと、そして自己啓発や社外学習に挑戦する人が少ない点を指摘し、次のように締めくくった。
「年齢や役職に関係なく、私たちには成長意欲、貢献意欲があります。もし社内に『成長意欲を感じられない』というスタッフがいても、それは意欲がないのではなく、今の環境では意欲を出せない、見せていないだけなのです。そうした人も含め、いかに内発的な動機付けができるか、そして辞めたいと感じない職場にできるか。今、企業には大きな責任がかかっています」
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