多店舗・多拠点ならではの難しさ、どう解消してる?

4 社キーマン座談会から学ぶ

<企業リーダーセッション>
多拠点展開キーマン座談会
~強い本部と現場を生み出すために〜

株式会社銚子丸 営業部副部長 兼 お客様創造課 プロデューサー
三浦 正嗣氏

株式会社ゴルフパートナー 執行役員 FC本部長
後藤 泰明氏

株式会社C&P 取締役 営業部 部長 
上原 薫氏

株式会社ナック クリクラビジネスカンパニー クリクラカレッジ学長 
安藤 欽一氏

 「人手不足」「チェーン全体の標準化」「本部と現場のコミュニケーション円滑化」「デジタル戦略」——多店舗・多拠点のサービス業には、さまざまな課題が立ちはだかる。こうした課題に、各社はどのように対応し、成果を出しているのか。

 11月26日に開催したイベント「人口減少時代、今こそ問い直す“サービス”とテクノロジーのあり方〜多店舗サービス業の未来と競争戦略」から、多店舗・多拠点ビジネスを展開する4社によるセッション「多拠点展開キーマン座談会〜強い本部と現場を生み出すために〜」のレポートをお届けする。

 登壇者は株式会社銚子丸の三浦正嗣氏(営業部副部長 兼 お客様創造課 プロデューサー)、株式会社ゴルフパートナーの後藤泰明氏(執行役員FC本部長)、株式会社C&P の上原薫氏(取締役 営業部 部長)、株式会社ナックの安藤欽一氏(クリクラビジネスカンパニー クリクラカレッジ学長)。

人手不足に各社はどう立ち向かっているのか

 最初のテーマは「人手不足をどのように捉えているか」。多数派だったのは、やはり「厳しい」という認識だ。そんな中、採用難を受けて、育成の強化にシフトしているのが銚子丸だ。三浦氏は「人手不足自体は昔も今も悩まされている」としつつ、昨今は拍車がかかっていると話す。これまで店舗ごとに寿司職人を3〜8人確保していたが、ここ数年は他社からのスカウトや採用がままならなくなっているという。

 「そこで、未経験の方でも積極的に採用し、ゼロから育成する方針に転換しました。“銚子丸学校”という独自の教育システムのほか、“研修店舗”を立ち上げ、前職の業態や業種が寿司業界ではない方でも、半年ほどで現場に立って寿司を握れるような仕組みを作っています」

 反対に、育成に課題があると話すのは上原氏。ヘアメンテナンスサロン「チョキペタ」を運営し、休眠美容師を活用するビジネスモデルの特質上、採用自体は順調な一方でブランクを埋め合わせる教育や、マネジメント層の育成に悩みを抱えているという。店舗を拡大するフェーズで店長を任せられる人員が不足している点は、特に課題と捉えている。

 一方で「人手不足は言い訳に過ぎないと考えています」と話すのが、後藤氏。ゴルフパートナーでは毎年多くの出店を行っており、その分店長ポジションなどを務められる人材が必要になる。

 これが逆に育成を行う原動力になり、働き手にも魅力的に映っているようだ。加盟店を見ても出店を増やしているフランチャイズでは教育制度がしっかりしており人材の層が厚い。反対に店を増やさないフランチャイズほど制度が充実しておらず、人手不足に悩んでいる傾向にあるという。教育で意識しているのが、とにかく実戦経験を多く積むこと。「接客回数によって成長スピードは大きく変わるため、いかに多く接客機会を持てるかを念頭に支援しています」と話す。

「画一化」と「個性」への向き合い方

 多店舗・多拠点を展開するチェーンビジネスでは、画一的なオペレーションで効率化するのが常道だ。特に個性が強い働き手も多そうなチョキペタでは、どのような工夫を凝らしているのか。

 「美容師はそもそも、他の人と差別化してお客さんを獲得する仕事ですから、個性の強い方は多いですね。ただ、個性をそのままにして運営すると『あっちの店ではここまでやってくれたのに』とお客さまの不満につながってしまいますから、店舗やスタッフで施術にムラがないようにマニュアルや標準化に注力しています。その際、ただ『標準化が必要だから』と頭ごなしに教育するのではなく、しっかりと各人が腹落ちできるよう、向き合うことは意識しています」

 一方で、個性を生かす方向でチェーンを運営しているのが銚子丸だ。銚子丸の寿司職人は、さまざまなバックグラウンドを持っている。例えば寿司店から転職した人もいれば、日本料理、さらにパティシエ出身の人もいるという。

 「チェーン店ではありますが、銚子丸にはセントラルキッチンがなく、店舗でのオペレーションに強い思い入れがあるんです。だからこそ、職人さんたちの個性を生かした施策もしています。

 例えば、鯛を仕入れたときに、寿司ネタとして活用するだけの店舗があれば、兜煮にも活用する店舗があるなど、店によって違いがあるんです。パティシエ出身の職人がいる店舗では、限定メニューとしてパンナコッタを出したりもしていますね。

 こうした個性的な商品は店舗の中にとどめるのではなく、ABILI Clip を使って横展開するようにしています。すると今後は新たなアレンジをしてさらに人気メニューが生まれることもあり、いかにモノマネを誘発するか、は意識していますね」(三浦氏)

多店舗・多拠点ならではの難しさ「コミュニケーション」の改善ヒント

 多店舗・多拠点ビジネスでは、成長に応じて店舗を増やしていく中で、本部と現場との関係性やコミュニケーションに課題が生じることも多い。例えば、階層が増えることによる情報伝達の伝言ゲーム化などは代表的な課題だろう。この点について、上原氏は「ミドルマネジメント層の統率力が重要ではないでしょうか」と話す。

 「ミドルマネジメント層の力がないと、情報伝達が正しくできません。受けた情報を正確に伝えられる、メンバーに腹落ちさせられるマネジャーを育成することが、店舗拡大のカギだと感じますね」(上原氏)

 「まさしく、トップの考えが現場までしっかり浸透しているかは本当に重要です。規模が大きくなっても言いっぱなしにならないよう、当社では『伝わっているか』の確認を徹底しています。

 具体的には、毎月店長同士の飲み会を開催し、そこにミドルマネジメント層が参加して、トップの意図が伝わっているか、誤解していないかをコミュニケーションしています。優秀なフランチャイズ加盟店は、現場のスタッフまでが社長と同じような目線で、同じような内容を話すものなんですよね。今後はより双方向のコミュニケーションが活発化するよう、ABILI Clip をもっと活用する予定です」(後藤氏)

 店舗数が増えるほど、何か新たな取り組みを始めるハードルが高くなってしまうのも「あるある」といえる。各社はどのように解消しているのか。安藤氏は自社の事例を紹介しながら、一方通行ではないコミュニケーションの重要性を挙げる。

 「以前、管理職層の間で、製造に携わるメンバーがなかなか表に出てこない、引っ込み思案だという認識があったんです。しかし、現場に足を運んでいろいろ話を聞くと、実は製造現場から業務改善などのさまざまなアイデアは出ていました。それが上位レイヤーまでうまく伝わらなかったり、横展開できていなかったりしたのが真の課題だったのです。

 そこで、正社員やアルバイトなど立場に関係なく、工場内の危険な場所を募るプロジェクトをやってみました。すると、製造現場のメンバーからは 200 件弱もの投稿があり、管理職が気付いていないような意見もたくさん出てきたんです。どうしても一方通行のコミュニケーションだと見えない部分も生じてしまいます。そうではなく、上下左右、さまざまな方向からコミュニケーションして巻き込んでいくことが重要だと感じた経験でした

DX によって「人ならではの仕事」の重要性が増していく

 今後さらに重要性を増す DX への向き合い方や、人とテクノロジーの関係については、どう考えているのか。各社で共通しているのが、人ならではの仕事とデジタルで置き換えられる仕事を整理する姿勢だ。

 「何でもかんでもデジタル化するとなると『自分の仕事がなくなるのでは』と不安になる人も出てきます。そのため、デジタル化が進んでも残る仕事や目指す姿を整理して、安心感を持って取り組めるようにしています。あとは、トップが乗り気ではないとやはり改革にブレーキがかかってしまいますから、うまく効果を実感してもらい、巻き込む意識も持っていますね」(安藤氏)

 「これから『人間ならではの仕事』でいかに価値を提供するかと考えると、やはりデジタルの活用は欠かせませんよね。当社で特に重要なのが買い取り業務でして、コロナ禍をきっかけに研修や勉強会をリモートに置き換えて、スキルアップしやすい仕組みを構築しました。社内制度の取得もオンライン上で完結できるようにするなど、バックグラウンドを整えて、人ならではの仕事に集中できる環境を、これからも整えていきたいと考えています」(後藤氏)

 この他、銚子丸では「職人の握りたてを提供する」という価値をより生かすため、昨今はレーンに寿司を流さず、フルオーダー式に転換。高速レーンなども導入し、少ない人数でも高いパフォーマンスを発揮できる環境づくりを進めている。

 今回のセッションを通し、課題が山積するサービス業において、4 社それぞれがさまざまなアプローチで取り組みを行いデジタル化と現場力の向上、さらに顧客提供価値のアップグレードを実現している事例を多く見てとることができた。業態は違うが、共通する課題意識も数多く見られたのも特徴的で、「多拠点ビジネス」という切り口での議論は非常に有意義な形で幕を閉じた。

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