働き手の意欲と能力を最大化する「情緒的価値」とは?
ギフト活用でギグワーカーと向き合う出前館の事例に学ぶ
人手不足をサービス価値を高めるチャンスに
〜3社の知見から学ぶ、人の力を引き出す方法〜
株式会社ギフティ giftee for Business事業部 本部長
篠塚 大樹氏
株式会社出前館 執行役員 CX本部 本部長
守屋 貴祐氏
トイトイ合同会社 代表社員/中央大学 企業研究所 客員研究員
永島 寛之氏
人材をいかにつなぎとめ、高い生産性を発揮してもらうか――人手不足の昨今、特に人が集まりにくいとされるサービス業界では、こうしたテーマは喫緊の課題だ。
そこで参考になるのが、デリバリーサービス「出前館」を展開する株式会社出前館の事例である。出前館の配達員は、いわゆるギグワーカーが多いながら、高いエンゲージメントと生産性を持って仕事をしている。
出前館では、株式会社ギフティが提供するデジタルギフトのサービスも活用しながら個々の能力を最大限に発揮できる環境構築に工夫を重ねてきた。そこで今回は、両社のキーパーソンと、人材活用や組織開発に詳しいトイトイ合同会社の永島寛之社長による講演のレポートをお届けする。
冒頭、永島氏はサービス業におけるデジタル活用に関して次のように指摘した。
「人材不足の今日では、デジタル活用において総労働量を減らす効率化の側面に注目が集まりがちです。一方で、人ならではの仕事の付加価値を高める使い方も見逃してはなりません」
守屋氏も「人が不足している今こそ、単なる効率化だけではなく付加価値の向上に向き合うチャンス」として、効率化によって浮いた時間や工数をいかに業績と直結する仕事に向けられるかが重要だと話す。
そんな中、出前館では配達員における「労働生産性」の向上について3つの取り組みを行っている。
まずは基本となるマッチングの工夫だ。同一の方向に、商品を1つではなく2つ持っていければ効率は格段に上がる。マッチングの際、こうした効率的な配送ができる仕組みづくりに注力してきた。
加えて、配達員は個人事業主がほとんどなことからサポートを充実させている点も特徴だという。
「これまで、配達員の皆様からのお問い合わせにつきましては、お電話での窓口をご利用いただく中で、1回の通話での解決率は約7割程度でした。しかしながら、その場合には複数回お電話いただくご負担が生じておりました。
こうした状況を踏まえ、サポート体制の見直しを行い、現在では1回のお電話で98%のお問い合わせが解決できる体制を実現。さらに、お電話をいただかなくてもお困りごとを解決いただけるよう、配達員用FAQのポータルサイトも新たに公開いたしました。」(守屋氏)
こうした取り組みで重視しているのは、個人事業主であろうとも従業員に限りなく近づけ、気持ち良く働ける環境の整備だ。施策の検討に当たっては配達員へのアンケートを通して「生の声」を吸い上げ、痒い所に手が届くように意識している。
ここまでは主に効率化に関する取り組みだが、エンゲージメントを高める施策にも注力している。その一つが、配達員向けの「ギフト」だ。出前館ではギフティのサービスを活用し、一定の配達数や評価基準を満たした配達員を対象に「プチギフト」の配布を実施している。
ギフティでは個人・法人を問わず多様なギフトサービスを提供しており、篠塚氏は次のように話す。
「関係構築や強化など、ギフトはさまざまな場面で役立ちます。特にサービス業では、繁忙期などなかなか人手が集まらないタイミングでシフトに入った方へ感謝の気持ちとして、金銭ではない『情緒的な価値』として利用いただくケースが増えてきました。口座に100円を振り込むのと、100円のギフトでは後者の方が感謝され、会話が生まれコミュニケーションが増えます」
実際、出前館でも梅雨時や炎天下での配達というハードな仕事に従事した人に向けたギフトとして、ギフティのサービスを活用しているという。
「配達で疲れたとき、150 円を現金でもらうのと 150 円のドリンクをもらうのとでは、絶対に後者の方がうれしいはずなんです。飲食店などで、優秀な店長や SV はこういう気配りができる人が多くて、メンバーも高いモチベーションにつながっていることもあります。特に私たちは、配達員の方とは遠隔でのやり取りでつながりを深めることが難しい部分があるからこそ、そういう時のタッチポイントとして、ギフトに大きな期待をしています」 (守屋氏)
篠塚氏と守屋氏の話を受け、永島氏は自身が参加した米国の人材開発カンファレンスでのエピソードも交えながら「人間臭さ」こそが今、企業価値を高めるヒントになると話す。
「これまで人事系のカンファレンスといえばハウツー系の講演がほとんどだったのですが、直近では半数をAI活用などのテック系、もう半数を関係性やEQといった『人間臭さ』をいかにビジネスへ生かすかというテーマが占めるようになりました。テックをベースにしつつ、人間らしさをどう価値として提供するか。その点で、確かに海外でもギフトへの注目度は高く、生産性の向上にも生かせそうですよね」(永島氏)
ギフトを中心とした、金銭だけではないつながりを機能させるポイントとして、篠塚氏は「企業のバリュー」など、戦略面との連携を挙げる。
「ギフトを導入する企業の中には『取りあえず、Amazonのギフト券をお渡しすればいいよね』といったスタンスの場合もあるんです。しかし、それでは非常にもったいない。反対に、現場を知り、モチベーションを高めることに熱心な企業では、行動指針を体現した人に、指針を表現したアイコンを刺しゅうしたパーカーをプレゼントするといったケースもあります。この辺は企業によって熱量に非常に差がありますね」(篠塚氏)
「一番やってはいけないのは『どうなりたいか』の視点が欠如したまま適当に報酬だけ設計することですよね。進みたい方向に向け、どんなギャップがあり、それをいかに埋めるか。その一手としてギフトなどの情緒的な価値を駆使できると良いと思います」(永島氏)
出前館でも、ギグワーカーをはじめとした様々なステークホルダーがいるからこそ、各人の方向性を捉え、尊重することを特に意識していると守屋氏は話し、3人は次のように締めくくった。
「 配達員の中には、配達を本業とされている方もいれば、すき間時間を活用して働かれている方もいらっしゃいます。私たちは、そうしたすべての方々にとって働きやすく、安心できる環境を整えることが重要だと考えています。
業務の効率化も、配達員のエンゲージメント向上も、どちらも欠かせない要素であり、いずれも役員を含む社内の多様なメンバーが積極的に議論し、アイデアを出し合いながら取り組んでいます。例えば、私たち出前館にとって大切なパートナーは配達員だけでなく、加盟店も同様に重要な存在です。
そうした考えのもと、今回お話した配達員へのギフトには、出前館加盟店に関連する内容を取り入れることで、配達員と加盟店の双方にとって価値ある取り組みとなるよう設計いたしました。配達員と加盟店のリレーションシップを高め、出前館に関わるすべてのステークホルダーに喜んでいただけるような仕組みを意識している点が、本取り組みの特徴の一つです。」(守屋氏)
「企業のビジョンやバリューまで踏み込んで取り組むのが、広くDXの本質ですよね。今回のギフトでいえば、金銭的には数百円で時給換算すると数十分ほどの価値です。それがエンゲージメントを高める上で機能しているのは、何より守屋さんが話したような設計が素晴らしいからに他なりませんよね」(永島氏)
「『記憶に残る』というのも重要ですね。数百円のギフトでも、使うときには会社のことを思い出すはずで、そうしたタッチポイントがエンゲージメントを高め、生産性にもつながっていくはずです」(篠塚氏)
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