ロフトとタビオが語る

「顧客に選ばれる」強いブランドの作り方

"売れる"から"選ばれる"へ
〜仕組みだけでは届かない、これからの顧客体験のつくり方〜

株式会社ロフト 営業企画部 販売促進担当 VMDスタッフ
榊原 淑恵氏

タビオ株式会社 システムソリューション部
井上 武尋氏

株式会社スマレジ アカウント営業部 部長
阪本 将史氏 

 ついつい足を運び、いろいろな商品に目移りするようなワクワクできる店舗づくりに特徴がある、ロフト。高い商品力とユニークなメッセージで人気を博す、タビオ。顧客に選ばれる強いブランド力を持つ両社は、どのような戦略と現場力によって成り立っているのか。

 株式会社ロフトでビジュアルマーチャンダイジングを推し進める榊原淑恵氏と、タビオ株式会社の井上武尋氏による講演レポートを基に、本部と現場をうまく連携させるヒントを探る。聞き手は、株式会社スマレジの阪本将史氏。

ロフトとタビオ、根幹には強い戦略とメッセージが

 ロフトとタビオは、企業ブランドとして強い戦略やメッセージを発信している点で共通している。

 このうち顧客体験を考える上で参考になるのが、ロフトの店舗設計だ。ついつい商品を手に取り、もともと買うつもりのなかったアイテムに魅力を感じ、気付いたら買っていた――そんな経験をしたことのある人も多いだろう。

 このロフトの店舗を語る上では「VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)」という考え方が欠かせない。もともとVMDに興味があったといい、現在は日本ビジュアルマーチャンダイジング協会の理事を務める榊原氏は次のように話す。

 「VMDとは、マーチャンダイジングを視覚化して、ストレスなく買い物をしてもらうための戦略です。日本ではまだ40年ほどの歴史しかありませんが、その先駆者がロフトといえるかもしれませんね。VMDを通して、共感や発見を得てもらう店舗になるよう工夫しています」

 例えば、30周年のときにロフトのイメージカラーである「黄色」の雑貨だけを集めた売り場を全店で展開したのは、その代表例といえるだろう。企業メッセージの中には「まじめに、ふざけたい。」というものがあり、それを体現しつつ、ロフトならではの付加価値を提供する企画として話題を呼んだ。

 直近では、サンプルを受け取れる「自動販売機」の取り組みも始めた。もともとサンプルの配布は行っていたが、アプリで会員にアナウンスし、店舗のレジに行って受け取りする必要があった仕組みを再設計した。

 新たに展開を開始した自動販売機『ロフボ』では、レジに並ばず、アプリのQRコードをスキャンしてサンプルを受け取れるようになっている。これまでの店舗に来てもらうタッチポイントとしての機能を残しつつ、顧客の利便性をさらに高めた仕組みとして、人気を博す。

 一方のタビオは、「靴下は自ら選ぶことのできない、過酷な生涯を送る。」という、靴下を人にたとえた言葉を品質哲学の原点の1つとしているという。

「靴下は、履く人や履かれる場面を自分で選ぶことはできません。そして、靴の中という密室で、一日中汗にまみれながら私たちの足を支えるという、非常にハードな役割を担っています。
だからこそ、私たちは最高の品質で応えたいのです。どんな環境でも足を快適に保ち、その役割を全うできる丈夫さを持たせたい。そうした愛情にも似た想いが、素材選びから編み方、縫製の細部に至るまで一切妥協しない、私たちのものづくり精神に繋がっています。
この品質へのこだわりこそが、お客様にとっての『価値』になると信じています。良いものを適正な価格でお届けすることで、最終的に『やはりタビオの靴下は良いよね』と心から信頼していただけると考えています。」(井上氏)

現場・顧客までブランドメッセージを届けるための工夫

両社とも、強い戦略やメッセージを有しているが、それを顧客まで届けるには現場にまでしっかりと根付かせる必要がある。この点には、どのような工夫をしているのか。

 榊原氏は「現場への権限移譲」を挙げる。ロフトは170以上の店舗があるが、その土地によって顧客やスタッフの個性があることから、最もよく知る現場に裁量を与え、個性的な店づくりをしているという。

 文具雑貨を中心に据えた「デコレーションパーティー」と題した企画では、コロナ禍で注目度が高まった「ログダイアリー」について、各店員が自分で書き記したものをサンプルとして展示した。料理に推し活、さまざまな用途で個人の記録が見られるサンプルは、ロフトらしいワクワクできる店づくりの一環として、大きな反響を呼んだという。

 タビオはどうか。同社は製造や直営店での販売の他に、スポーツ用品店への卸売りも行って、スポーツ商品の販売を強化している。スポーツ卸の店舗には自社の販売員がおらず、顧客との接点どうしてもが他社任せになってしまうので、自社のメッセージを伝える上でハードルが高い。

 そこで、店での商品の見せ方をパッケージ化して売り場展開するとともに、卸売り先に対して「タビオならではの差別化要素」「商品のおすすめポイント」などを年間で数十回レクチャーしているという。

 『卸して終わり』ではなく、私たちのメッセージをしっかりと顧客までお届けする上で、非常に重要な施策だと思っています」(井上氏)

現場の創意工夫を引き出すシステム化にはどう取り組んでいる?

 その他、現場の負担を軽減し、各自が創意工夫を凝らせるような仕組みづくりも、両社では進む。

 タビオでは従来、多品種を小ロットで製造し、「売れる分だけ作り、在庫は残さない」戦略を進めてきた。しかし、コロナや高齢化など環境の変化の影響を受け、生産のリードタイムが長期化。売れる分だけ作る戦略を今の時代に合わせて調整する必要に直面した。

 そこで、まずは店舗の需要予測に着手し、精度を高めて生産現場に共有することで生産のリードタイムの長期化した分を予測で吸収することを検討している。

店舗の需要予測では、店長の勘だけに頼らずにすむよう、効率的に発注するために、システムを強化。クラウドPOSシステムのスマレジを活用し、在庫データを受発注システムと連携しながらある程度の自動化を行っている。「ある程度」と書いたのは、店舗の裁量を残すために完全な自動化までは考えていないからだ。

 「店舗によっては『これを売りたい』と意思を持って販売することもあります。これが店舗ごとの特徴や強みにつながることもあるため、完全な自動化はせず、店長の個性も発揮できる余地を残しています。」(井上氏)

 この他、データベースに点在するシステムやデータを生成AIからアクセスできるような環境整備について調査研究を行っている。

 ロフトでは、VMDに必要な人間の創意工夫を引き出す環境整備に取り組んできた。例えば、VMDで特に重要な「ビフォーアフター」を通したコツの習得のため、2018年から店舗での実践研修を実施している。

 「単に商品を美しく陳列するのではなく、店舗やブランドの意思を伝えきるのがVMDの勘所です。実践研修に先立ち、2015年から社長を審査委員長とするコンテストも実施しており『ロフトの夏の甲子園』と呼ばれるほど盛り上がるようになりました。これらの取り組みを通して、社内全体でのノウハウを共有しながら現場力を高めるように努めています」(榊原氏)

 本部主導のMVV策定や戦略立案ももちろん重要だが、それらを最終的に顧客へ届けられるかどうかは、現場との連携や創意工夫を引き出す細かい配慮も求められる。その点、ロフトとタビオの事例は非常に参考となりそうだ。

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