小売業界におけるデータ分析のよくある課題・落とし穴と成功のポイント
近年の小売業界は人手不足の深刻化やマーケット内の競争激化に見舞われており、これまでと同じやり方を続けていては経営状況が悪化してしまいかねません。市場環境の変化が大きいなか、これまで以上にデータ分析に基づいた効果的・効率的な改善が求められます。
本記事では、小売業界におけるデータ分析について、その重要性やよくある課題、落とし穴、成功のポイントを解説します。小売業界のデータ分析に興味がある企業担当者・経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次[非表示]
小売業においてデータ分析が不可欠な理由
現代の小売業界において、データ分析による店舗改善の活動は不可欠です。その大きな理由として、下記の3つがあります。
人手不足の深刻化
マーケットにおける競争の激化
店舗ごとの「バラつき」の発生
順番に見ていきましょう。
人手不足の深刻化
人手不足の深刻化はほとんどの産業で大きな問題になっています。帝国データバンクが公開した「人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)」によると、正社員の人手不足を感じている企業の割合は52.1%、非正社員の人手不足を感じている企業の割合は30.9%となっており、多くの企業が人手不足に悩まされていることがわかります。
特に小売業においては状況が深刻であり、同調査では非正社員の人手不足割合において「飲食料品小売」と「各種商品小売」が上位10業種に入っています。実際に、人手不足によって店舗運営に支障が出ている企業も多いでしょう。
人手不足が深刻化する状況では、データを活用した効率的な運用が欠かせません。データ分析によって在庫調整や人員配置などを最適化できれば、限られた人員でも問題なく店舗運営を進められます。
マーケットにおける競争の激化
日本は少子高齢化によって人口減少が進んでおり、それに伴って各マーケットも縮小傾向にあります。少ない消費者を各企業が取り合う形になり、競争の激化は避けられません。
また、インターネットの普及によって情報が簡単に手に入る現代では、顧客ニーズの多様化が進んでいます。顧客ニーズを細かく分析したうえで競合他社との差別化を図らなければ、マーケットで生き残るのは難しいでしょう。
顧客ニーズを把握し、商品・サービスの開発に活かす意味でもデータ分析は欠かせません。既存顧客の属性や売上の傾向などを分析することで、顧客が求めているものや自社独自の強みなどが見えてきます。
また、デジタルが台頭した今だからこそ、「人によるサービス」は顧客満足度を大きく左右し、小売業界における重要な競争力にもなります。
店舗ごとのバラつきの発生
多店舗経営の小売店は、店舗ごとの経営状況にバラつきが出るケースも少なくありません。店舗ごとに立地や顧客層、スタッフの数、店舗責任者の能力などが異なるため、同じ施策を実施してもその成果は変わってきます。
チェーン全体の平均的な水準を上げるには、データを用いた店舗状況の可視化が不可欠です。顧客満足度や売上データなど日々の定量データだけでなく、従業員のスキルといった可視化しにくい指標も可視化していくことで、改善すべきポイントの洗い出しが可能となります。
小売業のデータ分析における重要指標
小売業におけるデータ分析では、以下の指標が特に重要です。
来店客数
購買率
- 平均客単価
在庫回転率
- 顧客満足度
来店客数
来店客数は、「一定期間に店舗を訪れた顧客の数」を指します。店舗を訪れる顧客が多ければそのぶん売上の増加が見込めるため、店舗経営に欠かせない重要な指標です。曜日や時間帯ごとに来店客数の傾向を掴めれば、在庫調整や人員配置の最適化が図れます。
ただし、来店客数は天候や一時的なトレンドなどの突発的な要素にも大きく影響を受けるため、長期的な視点でデータの収集・分析を進める必要があります。
購買率
購買率は、来店客数のうち「実際に商品を購入した顧客の割合」です。「購買客数÷来店客数」の計算式で算出します。どれだけ来店客数が多くても、商品を購入せずに退店してしまう顧客が大半では売上につながりません。そのため、来店客数だけでなく購買率も確認するようにしましょう。
店舗ごとの購買率に差がある場合、購買率の高い店舗には販売スタッフの能力や商品レイアウトなど、顧客の購買意欲を高めている要素があるはずです。データ分析によってその要素を特定し、ほかの店舗にも取り入れることで、チェーン全体の購買率向上が図れます。
平均客単価
平均客単価は顧客の平均購入額のことで、「売上額÷購買客数」の計算式で算出できます。平均客単価を上げられれば、同じ顧客数でも売上をアップさせられます。販売員ごとの平均客単価を分析することで、各販売員の接客スキルなどの可視化も可能です。
季節によって売れる商品の種類や価格帯が大きく変わる場合、どの期間の平均客単価を用いるかによって分析結果が変わる点には注意しましょう。
在庫回転率
在庫回転率は特定の期間内における商品毎の販売効率を指し示し、「売上原価÷平均在庫コスト」の計算式で算出できます。在庫回転率が高いほど、在庫を迅速に現金化していることを意味し、経営の効率性が高いと考えられます。
一方で、在庫回転率が低い状態は、商品が倉庫や店舗に長期間留まってしまっていることを指し、特に季節性商品や流行に左右されるアイテムを取り扱う場合、売れ残りによる大規模な値引きや廃棄コストといった直接的な損失のリスクを高めます。
店舗毎の顧客の好みや属性を把握し、商品別の在庫回転率を確認することで、
より計画的な在庫管理や商品の仕入れ、売場づくりが可能となり、チェーン全体の経営の効率性の向上を実現できます。
顧客満足度
顧客満足度は、「顧客が製品やサービスに対して感じる満足の度合い」を示す指標です。
この満足度は、製品の品質、価格設定、購入の便利さ、店舗の雰囲気、顧客サービスといった多岐にわたる要因によって左右されます。
店舗ごとに得られた顧客からのフィードバックを具体的な課題に分け、改善の優先順位を定めた後、本部と各店舗が一体となって取り組むことで、顧客体験の質を継続的に高めていくことが求められます。
小売業界におけるデータ分析の課題・落とし穴
小売業界において重要性の高まるデータ分析ですが、実施するうえでは以下のような課題・落とし穴があります。
データの収集・分析に手間がかかる
- 部門・店舗を横断した活用ができていない
データ活用のスキルが不足している
- 分析結果が現場レベルまで共有されない
具体的な改善施策につながらない
データ分析の導入失敗パターンを踏まえ、効果的な運用体制を構築していきましょう。
データの収集・分析に手間がかかる
前述の来店客数や購買率といった重要指標に加え、顧客満足度や人時生産性など、小売業のデータ活用では収集・分析すべき指標が多岐にわたります。そのため、データの収集や分析にかかる手間が大きくなり、せっかくあるデータを活用できていないケースが少なくありません。
人手不足が深刻化するなか、発注や品出し、接客、シフト管理など通常の店舗運営業務で手一杯になり、データ分析にまで手が回っていないという店舗は多いでしょう。いかに手間をかけずデータを収集・分析するかは大きな課題だといえます。
部門・店舗を横断した活用ができていない
データを収集・分析しているものの、活用の範囲が特定の部署や店舗に留まっているケースも見られます。「データ分析の粒度が店舗によって異なる」「店舗によって分析している指標が違う」といった状況では、部門間での連携や好事例の水平展開が難しく、データを最大限に活用できません。
データ活用のスキルが不足している
データ分析を行っても、それを経営戦略に適切な形で活かさなければ意味がありません。多くのデータのなかから着目すべきポイントを見つけたり、各種データを組み合わせて必要な数値を算出したりするには、データ活用のスキルやノウハウが必要です。
多店舗展開をしている場合は特にデータ量が多く、店舗全体だけでなく販売員ごとの指標なども算出して活用するのは簡単ではないでしょう。データ活用のスキルやノウハウがなければ、蓄積したデータを経営改善に活かせません。
分析結果が現場レベルまで共有されない
データ分析の結果を各店舗の現場レベルまで共有できるかどうかも大きな課題の1つです。多忙になりがちな店長などのミドル層が情報共有のボトルネックになり、「本部からの改善指示が店舗スタッフに伝わっていない」「他店の好事例がうまく共有されていない」といった状態になるケースは珍しくありません。
具体的な改善施策につながらない
データを分析して各指標の数値が得られたとしても、それを具体的な改善施策につなげられなければ意味がありません。例えば、適切なKPIが設定できていなければ、どのように改善を進めるべきか人によって判断が分かれる可能性があります。達成したい最終目標やKPIなどを事前にしっかり定めたうえで、データ分析に臨む必要があります。
小売業界におけるデータ分析のポイント
課題や落とし穴を踏まえ、小売業界においてデータ分析を進める際は以下4つのポイントを押さえておきましょう。
- データ収集の仕組みを整備する
収集したデータを一元管理する
情報共有のボトルネックを解消す
店舗の状況を数値で可視化する
データ収集の仕組みを整備する
日々の業務量が多く人手不足に悩まされている小売業界では、まずデータ収集の仕組みを整備することが大切です。やみくもに取り組んでも効率が悪いため、仕組みを整えてデータ収集にかかる工数を抑えましょう。また、多店舗展開している場合は、収集・管理するデータを全店舗で統一するなどの工夫も必要です。
例えば、顧客満足度を測る場合はアンケートの作成から回収、集計まで一括で行えるツールを活用すると効率的です。このように外部ツールをうまく活用して、効率的にデータ活用を進めましょう。
収集したデータを一元管理する
データを収集しても部門や店舗ごとにバラバラに管理していては、それぞれの経営状況や全体の水準のバラつきを可視化できません。部門・店舗間の情報共有や事例の水平展開をしやすくするためにも、収集したデータを一元管理できる仕組みを導入しましょう。
収集したデータをもとにダッシュボード上に各KPIをまとめておけば、現状把握や情報共有に役立ちます。データの一元管理ができていれば、経営層が全体の状況を把握したり、各店舗の責任者が自店舗と他店舗の指標を比較したりといったデータ活用を効率的に行えます。
情報共有のボトルネックを解消する
小売業におけるデータ分析の課題の1つとして、店長などのミドル層が情報共有のボトルネックになりがちである点が挙げられます。
データの分析結果を活用するには、現場レベルまでスムーズに情報共有ができる環境でなければなりません。しかし、人手不足などで店舗責任者の業務負担が増加した結果、本部から共有された情報の確認やスタッフへの伝達が後回しになるケースは少なくないでしょう。
店舗の状況・状態をダッシュボードで見える化し、ミドルマネージャーが店舗へつぶさにフォローできる体制を整えておくことで、情報共有のボトルネック化を回避することができます。
店舗の状況を数値で可視化する
店舗の経営状況を客観的に把握できるよう、データを数値で可視化するのも重要なポイントです。売上や利益率といった「結果指標」だけでなく、それらの結果につながる顧客満足度や人時生産性などの「原因指標」もKPIに設定しましょう。
店舗経営に大きな影響を及ぼす重要指標を数値で管理し、過去実績の確認や他店舗との比較ができる状態に「見せる化」できれば、組織全体が同じ目線で改善に取り組めるようになります。日々の業務が忙しい小売業だからこそ、統一の指標で数値化を進めることでデータを効率的に活用することが大切です。
データ分析による小売業の改善事例
アートキャンディの「PAPABUBBLE」や独創的なバウムクーヘンの「ヴィヨン」など、スイーツショップの複数ブランドを展開する株式会社PAPABUBBLE JAPANでは、多店舗経営をサポートするプラットフォーム「ABILI」を活用することでデータ分析を進めました。
まず、各店舗に点在していたデータを統合して可視化するための専用ダッシュボードを構築したことで、データの収集・集計・共有がスムーズになり、即時改善が可能となりました。また、従来はKPIの共有などが行き届いておらず、「とにかく頑張る」というスタンスで働くメンバーが多かったなか、「社員熱量」などの指標をKPIとして設定し、モチベーションの向上につなげています。
ほかにも、顧客満足度調査の結果とPOSシステムのデータの連携による購買データの可視化や、新規事業の成果分析に取り組んでサービス内容をブラッシュアップ等、各種データを最大限に活用しています。
関連記事:https://note.com/clipline/n/n87dd988aa425
【まとめ】小売業におけるデータ分析の課題とポイント
本記事では、小売業界におけるデータ分析について、その重要性やよくある課題、落とし穴、成功のポイントを解説しました。
人手不足の深刻化やマーケットの競争激化が進む小売業界で生き残っていくには、これまで以上にデータ分析に基づく効率経営が求められます。しかし、そのためにはデータを収集・分析するための仕組みづくりや現場レベルまで共有を徹底するための施策が欠かせません。
「ABILI」は、多店舗・多拠点ビジネスの成長を阻む「バラつき」を解消し、店舗とブランドの潜在力を引き出すために生まれたサービスです。ダッシュボードや動画共有プラットフォーム、顧客満足度調査ツールなど、小売店のデータ活用に役立つサービスを一気通貫で提供できますので、ご興味のある方はぜひお気軽にご相談ください。