サイゼはどのように人手不足を乗り越えてきたのか? 元社長が語る、実践的かつユニークな取り組み

サイゼリヤ元社長が明かす、客数1億5千万人のための経営術!
~考えれば、やり方は無限の人材不足対策~

株式会社サイゼリヤ 元代表取締役社長 堀埜一成氏

高齢者・高校生を取り込むための施策とは?

今や国内外に直営で1500店舗超を展開し「世界最大級のイタリアンレストランチェーン」(堀埜氏)となったサイゼリヤ。一方で、常に人手不足に悩まされてきたという。

 そこで堀埜氏が構想・取り組みを進めたのが「雇用対象の拡大」「必要労働時間の低減」「無駄な労働時間の削減」の3つだ。雇用対象の拡大では、高齢者・高校生に目を付けた。

 まず高齢者を採用するに当たっては、筋力が衰え始める年齢であることに注目。特にフロア移動は重労働だ。サイゼリヤではワゴンやトレーがないことで、運搬と移動の負荷を軽減している。

 運搬負荷軽減としては、食器の軽量化にも取り組んだ。例えば、グラス・ジョッキを樹脂製のものへ変更。「『ビールのジョッキが軽すぎる』『ワインをプラスチックのグラスで飲ませるのか』といったご意見もいただきましたが、一時的なものでした」と堀埜氏は振り返る。

 就任中の大きな取り組みでは、グリストラップの見直しも挙がった。当初使用していたものは、30センチほどキッチンの床を上げる必要があった。「わずか30センチ」にも感じるが、往復する頻度が高く、足への負担はかなりのものだったという。また、水面の高さを利用して排水するため、排水口近辺にしか置けず、キッチンの位置に制限が生じていたという。店舗によってはキッチンから最も近い最寄りの客席まで30メートルほどの場所もあり、移動の負担や効率化の観点で課題になっていた。

 そこで、海外の展示会で発見したグリストラップを採用。これにより、床を上げる必要がなくなった。また、どこにでも設置できることで、店舗レイアウトの自由さが広がり、移動の負担が少ない動線を実現できるようになったという。

 高校生のアルバイトに関しては「親が安心できる環境を作ることで、働いてもらえるはずだと考えました。それが結局、お客様にとっても良い環境になるんです」と堀埜氏。高校生だけでなく、親もファンになれるような取り組みに着手していった。

 代表的な取り組みが、全店の禁煙化だ。最初は客数に影響したというが、徐々に他社も追従することで影響は小さくなっていった。ヤニなどの清掃コストが減り、喫煙席/禁煙席を分けていたパーテーションもなくなったことで、客席の状況が見やすくなる効果もあったという。

 高校生アルバイトの採用では、主婦層のパートスタッフ活用も効果的だ。パートスタッフの観点では、自分の子どもには話せないような内容でもアルバイトの高校生には話しやすい。また、高校生アルバイトにとっても、自分の親には抵抗しがちだが、パートスタッフには抵抗せず、聞き入れやすい特性があるという。こうした関係性に着目し、双方の関係構築とともに、高校生がいろいろなことを学ぶ機会が採用において有効性を発揮すると堀埜氏は話す。

 産休・育休中の社員活用にも取り組んだ。休業中にリモートタスク契約を結び、社内のデータ整理や図表化、他社の情報収集などを依頼することで、遊休人材の活用だけでなく、休業者が職場とのつながりを維持し、休み明けに復帰しやすい環境とした。

労働時間の最適化で取り組むべきこと

 2つ目の必要労働時間の低減では「人時売り上げ」に着目。1人当たりの1時間売り上げを増やせれば、人は減らせる。人時売り上げを細かく分解し、特に効果が出やすい要素として総労働時間の削減に取り組んだ。

 中でも効果があったのは、開店準備と閉店作業の見直しだ。開店準備では、店舗清掃を掃除機からモップに変更するなどで30分程度を削減できたという。わずか30分だが、時給1000円で365日・1000店で計算すると、約2億円の削減となる。閉店作業では、自動釣銭機を導入。売上金の回収袋と直結することで、効率化だけでなく安全性も向上させた。

 営業の前後だけでなく、営業時間そのものにもメスを入れた。もともとロードサイドへの出店が主流だったのをショッピングセンター内の出店へとシフト。ロードサイドの場合は標準の閉店時間が午前2時。一方でショッピングセンターの場合、午後10時と4時間の営業時間短縮となる。

 「実はショッピングセンター内の飲食店は、ブルーオーシャンなんです。なぜなら、ショッピングセンターは昼間に利用する方が多く、ディナー営業が主力のチェーンは入居しにくいからです。一方、軽食が主力のサイゼリヤは親和性が高いことから、ショッピングセンターへの出店を増やしていきました」(堀埜氏)

 そもそも必要な人員を減らすという観点で、店舗サイズの変更も実験した。従来は70〜80坪の店舗が多かったが、コンビニサイズである40坪の店舗を出店。ピーク時のスタッフ数が4人以下であれば利益を出せるなどのデータが集まり始めたが、堀埜氏の退社もあって本格化には至らなかったという。

 その他、スタッフを店舗単位ではなくエリア単位で担当させる方式に変更することや、個人の能力を数値化するユニークな取り組みも話に挙がった。数値化では「NB(Net Battle)値」という制度を設け、店長が1時間当たり1万、入りたてのパート・アルバイトスタッフは同じく3000といった形で、店舗ごとの能力も数値化していったという。

意外と重要な「自信」そのために必要なものは?

最後の、無駄な労働時間の削減で取り組んだものとして堀埜氏が挙げたのが、退職者の抑制だ。「優秀なスタッフが退職して新人と入れ替わることで、店舗のNB値が下がってしまいます。そこで、さまざまな施策に取り組みました」(堀埜氏)

 例えば、一定期間勤続すると株が付与され、退職時に退職金として譲渡するような制度や、各種の相談窓口。ユニークなものでは、社長から毎週届けられる漫画メッセージなども挙がった。漫画は3年ほど続け、最終的に150話ほどになったという。その他、動画マニュアルの導入や、作業機器の変更などによって教育時間の短縮にも取り組んだ。

 このように、人手不足に対する数多くの施策を展開してきた堀埜氏。最後に、視聴者に対して次のようなアドバイスとともに締めくくった。

 「人手不足対策は、バリューチェーンマネジメントの観点で考えると、たくさんのアイデアが出てくるのではないでしょうか。例えば『こんな職場なら働きたい』『こんな職場なら働き続けられる』といった観点で考えるのも良いですよね。

 あとは、人手不足とは何かを考える必要もあるといえます。そもそもサイゼリヤのようなカジュアルレストランは、ある程度の人手不足を容認して、オペレーションで対応していかないと労務費がかさんでしまいます。自社にとって、どこまで人手不足を解消すべきか、他に解決できそうな手段はないかを考えてみるのも良いのではないでしょうか」