介護サービスにおけるDXの進め方|メリットと導入時の課題も解説
少子高齢化の進行により、介護現場の人手不足は一層深刻化しており、業務の効率化や見直しが急務となっています。政府も推進するDX(デジタルトランスフォーメーション)により、システムやツールを用いた現場の変革が求められているといえるでしょう。
しかし、介護現場のDXを進めたいと考えていても、どういう流れで導入すればよいか、具体的な進め方がわからないという方が多いはずです。本記事では、介護サービスにおけるDXの進め方やメリット、導入時の課題をまとめて解説します。
目次[非表示]
介護業界でDXが求められる理由
まずDXとは、簡単にいえば「システムやツールなどのIT技術を駆使し、既存の社会やビジネスのあり方を変革すること」です。
経済産業省が公開している「デジタルガバナンス・コード2.0」によると、DXの厳密な定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」となっています。
これを介護業界に当てはめれば、「システムやツールなどのIT技術を介護現場に導入し、既存のケアのあり方やアプローチを変革し、業界内での競争優位を確立すること」だといえるでしょう。
特に介護業界においてDXが大きく求められている背景としては、以下の2点が挙げられます。
・介護現場の人手不足が深刻化している
・厚生労働省が科学的介護を推進している
順番に詳しく見ていきましょう。
介護現場の人手不足が深刻化している
まず冒頭でも述べた通り、少子高齢化が進む現在の日本では、高齢者が増える一方で生産年齢人口が大きく減少しています。経済産業省の資料「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」では、全人口に占める生産年齢人口の割合が2050年には約50%程度にまで落ち込むとの予測となっています。
現時点でも人手不足が深刻だとされる介護業界においては、ケアが必要な入居者が増える一方、ケアをする側の労働者が減り続ける状況です。IT技術によってサービスの提供方法に変革を起こし、入居者1人あたりにかかる時間・人数を最小化しなければ、状況は悪化を続けるばかりになるでしょう。
厚生労働省が科学的介護を推進している
2021年度より、厚生労働省が「科学的介護情報システム(LIFE)」の運用を開始しました。政府が推進する「科学的介護」に対応していくという意味でも、介護現場のDXは避けられないといえるでしょう。
「科学的介護情報システム(LIFE)」とは、介護現場のデータを収集して厚生労働省に集め、大量のデータ分析による科学的裏付け(エビデンス)に基づく介護を実現し、現場にフィードバックするというものです。
参考:厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)による科学的介護の推進について」
厚生労働省からの要請に基づき、円滑にデータを収集・提供したり、フィードバックを受けたりするためには、介護現場へのITツール・システムの導入が欠かせない状況となっています。
介護事業にDXがもたらすメリット
介護事業にDXがもたらすメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
・人材不足の解消
・業務の効率・精度向上
・サービス品質の向上
人材不足の解消
介護現場におけるDXによって、もっとも期待されているのが人材不足の解消です。DXによって人手で行なっていた作業を自動化・システム化できれば、現場に必要なスタッフの数が減り、人手不足が解消されます。
例えば、これまで手書き・紙ベースで行なっていた事務作業を電子化・データ化したり、館内の見回りや入居者の状態確認をセンサーによって自動化したりといった例が挙げられます。
DXによって現場スタッフの負担が軽減されれば、結果的に従業員満足度が向上し、離職率も下がるでしょう。そうなれば、安定的な人員の確保にもつながります。
業務の効率・精度向上
DXの手段としてツールやシステムを活用することで、効率化によって入居者1人あたりにかかる介護の時間が減少するほか、ヒューマンエラーの発生リスクも低下します。データの入力ミスや入力漏れなどが発生しにくくなるため、より適切な介護が可能になるでしょう。
介護現場におけるミスは、入居者の身の安全にかかわる重大な問題になる可能性もあります。人手不足の状態が慢性化していては、業務上のミスも発生しやすくなります。DXによって業務の効率・精度を向上させれば、従業員・入居者双方にとって安心できる環境の構築が可能です。
サービス品質の向上
DXは業務の効率化だけでなく、サービス品質の向上にもつながります。
例えば、ツールやシステムによって入居者の状況をより的確に把握できるようになります。センサーやウェアラブル端末によって部屋・入居者ごとの状況を把握しておけば、より適切なケアが可能になるでしょう。
また、単純作業を機械に任せることで、従業員はひとりひとりの入居者に向き合う時間が十分とれ、よりきめ細やかなサービスを提供できるといった点も挙げられます。DXを推進したとしても、人手が必要な業務がなくなるわけではありません。人だからこそできる業務に集中することで、サービス品質が向上しやすくなります。
介護サービスにおけるDXの課題
介護現場におけるDXの推進は多様なメリットがありますが、一方で以下のような課題も挙げられます。
・今までのやり方への固執や構造上の変化の難しさ
・コスト・費用対効果の算出や運用設計が難しい
・スタッフのリテラシー・ITレベルのバラつき
今までのやり方への固執や構造上の変化の難しさ
DXの難しさとして、新たなシステムやツールを導入するにあたり、現行の業務に慣れている従業員から反発が起こりやすい点が挙げられます。すでに無意識に業務を行なえるレベルにまで習熟しているスタッフにとっては、新しいやり方に抵抗を感じるのも仕方がないといえるでしょう。
現場の理解を得るためには、既存の業務においてボトルネックになっているポイントを具体的な数字によって可視化し、メリットを提示することが大切です。例えば、「〇〇の事務処理に1週間で〇時間かかっている」「〇〇のために常時〇名以上の体制にしておく必要がある」などといったものです。DXの推進は従業員にとっても業務負担を軽減するものであり、ポジティブな変化であることを数字を用いて説明しましょう。
現行のシステム上、または組織上の変化の難しさがハードルとなる場合もあります。導入が現実的かどうか、専門家の知見も借りながら検証することが大切です。
コスト・費用対効果の算出や運用設計が難しい
DXには投資が伴うため、費用対効果に確証が持てず、導入に踏み切れないというケースは少なくありません。
最先端のロボットの導入などには大きなコストがかかります。さらに、DXにおいてはさまざまなツールやシステムを組み合わせる必要があるため、全体を最適化するための運用設計が難しい点も課題として挙げられます。
まずは事務作業のシステム化や入居者の行動を把握するセンサーの設置など、簡易なものから導入を開始し、徐々にDXを推進するのが理想です。
スタッフのリテラシー・ITレベルのバラつき
介護現場では、若手からベテランまでさまざまなスタッフが働いています。そのため、リテラシー・ITレベルにバラつきがあり、複雑な機器の操作は難しいと感じるスタッフもいるのが実情です。
スムーズにDXを推進するには、「複雑すぎるシステムを導入しない」「各拠点でDX推進リーダーを決めて各従業員のサポートをさせる」など、すべての従業員が新たな仕組みを活用できるよう、対策する必要があります。
介護サービスにおけるDXの進め方
課題やメリットを踏まえ、介護サービスにおいてDXを進めるには以下5つのステップが重要です。
・現場の課題を特定する
・課題解決の優先順位をつける
・ツール・仕組みを検討する
・現場マネージャーによる理解・協力を促す
・現場に浸透させ、効果を実感してもらう
現場の課題を特定する
まず、介護現場においてDXで解決すべき課題をクリアにしましょう。
例えば、事務作業にかかっている時間や、シフトのなかで多くの人員を割いている工程を洗い出します。サービスをよりよいものにし、拡大していくにあたっての「事業のボトルネック」がどこにあるかを特定することが大切です。そのためには、作業時間や作業人数などの数値で可視化することが重要になってきます。
課題解決の優先順位をつける
DXで解決すべき課題は多岐にわたりますが、洗い出した課題をすべて解決するのは現実的ではありません。一気に取り組みを進めてしまえば、せっかく導入したツールやシステムをうまく使いこなせず、投資回収が難しくなります。
費用対効果を高めるためにも、工数や金額を見極め、コストが少なく効果が出やすいものから着手するようにしましょう。
ツール・仕組みを検討する
解決すべき課題を絞ったら、具体的にどのようなツールや仕組みがあれば解決できるかを検討します。
DXというと次世代型の介護ロボットなどを想像する方が多く、実際に実用化も始まってはいますが、導入コストが高く、現場の抵抗感も強いことが多いです。そのため、まずは事務作業や出退勤記録のシステム化、入居者管理用のセンサー導入など、大きな工数・コストがかからないものから始めるのが理想だといえます。ITツールに不慣れな従業員がいる点からも、段階的に進めるのがおすすめです。
また、導入するツール・仕組みを検討するうえでは、個別最適ではなく「全体最適かつ中長期的な視点」が大切です。さらに、ツールの提供会社による運用サポートの手厚さも重要なポイントだといえるでしょう。
現場マネージャーによる理解・協力を促す
DX推進に向けて現場の機動力を上げるためには、マネージャー層の理解が重要となります。現場のリーダーがDXに懐疑的であれば、スタッフレベルが前向きに取り組んでくれることはないからです。
マネージャー層が日々のオペレーションで抱えている現場の課題を浮き彫りにし、その解決にDXが役立つことを数字をもって説明しましょう。自分ごととしてメリットを感じてもらえれば、取り組みへの協力を得やすくなります。
現場に浸透させ、効果を実感してもらう
DXを具体的に推進する段階では、現場の全スタッフに新たなツール・仕組みの利用機会を与え、効果を実感してもらうことが大切です。一部のスタッフによる限定的な活用では、DXの真の恩恵は受けられません。新たなツール・仕組みをどのように活用するのか、どのようなメリットがあるのかが現場にしっかり伝わることで、ひとりひとりが前向きに取り組むようになります。
しかし、スタッフ全員に一から教育・指導するのは手間がかかりすぎるでしょう。例えば、動画配信システムを活用して新たなツールやシステムを使った介護の様子を視覚的に共有すれば、指導の手間もかからず、習得効率も高くなります。
動画型実行支援システムの「ABILI Clip」は、上記のような動画配信に加え、実践時のフォローなど双方向でのやり取り、理解度の可視化など、介護現場のDXに役立つシステムとなっています。介護サービス事業での導入実績も増えており、SOMPOケア様や株式会社SOYOKAZE様 にご活用いただいています。
動画型のマネジメントシステムを使えば、新人スタッフへの教育プログラムのなかに経営層からの理念・方針に関する説明などを盛り込むといった使い方も可能です。従業員のモチベーションアップや行動指針の理解につなげられるため、組織の運営効率が大きく向上するはずです。
介護サービスにおけるDXの進め方まとめ
本記事では、介護サービスにおけるDXについて、課題やメリット、進め方を紹介しました。介護現場でDXを推進するにあたって、システムやツールを導入するだけでは現場の前向きな協力が得られず、業務の効率・精度向上はなかなか進みません。結果的に費用対効果に見合わない投資になってしまうでしょう。
介護サービスにおいてDXを推進するには、現場に浸透させるための仕組みも同時に考えていくことが大切です。動画型実行支援システム「ABILI Clip」は、先述の通りSOMPOケア様や株式会社株式会社SOYOKAZEなど、介護業界のお客様に導入いただく事例も増えています。
介護の基本技術やコミュニケーションの取り方など、ノウハウをもとにした基本コンテンツも用意しているため、すべてを一から作ることなく既存のコンテンツを活用することが可能です。また、映像制作チームを社内に揃えているため、ニーズにあった動画コンテンツの作成もご依頼いただけます。
そのほかにも、ABILI Clipによって果たせる現場改善の例としては、以下のようなものが挙げられます。
・重点施策の実行率最大化・バラつき改善による業績改善
・ミドルの負担が最も下がる人材即戦力化・OJTプログラム
・リモート臨店によるQSC改善
・顧客満足度・顧客体験向上による売上アップ
・集まらずにリモートでできる「集合研修」
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